5周年記念企画:Prince of memories - 4/10


ある程度のことは跡部から自由にして良い。
と言われていた。

なので。

「わーーーーっ!すごい、すごいよっ!これどうしたのっ?」
「こういう方法あるんです。記憶刺激に。」
「へええ・・・」

可憐は自室をちょっと改装された。
落下当時の状態を再現したのだ。
位置も前と同じ2階に。
そして。

「窓の外も、ほら。」
「・・・あっ!蔦だっ!」
「もうちぎれないように、魔法かけてありますんで。」
「えっ、使えるってことっ?」
「はい。本来は危ないんですけど、当時の習慣やったわけやから、やった方が。」
「そっかっ!」
「家具も、捨ててなかったもんは、奥から出してきたんで。傷とか、そのままやと思います。」
「そうなんだっ!うわあ、懐かしいっ!」

サイズ的に小さかったものは、魔法で大きくしてある。
可憐は懐かしくて、当時に戻ったようにはしゃいで、意味もなくベッドに触ったり、クローゼットを開け閉めしたりと、楽しんだ。

が、やがて急にぴたりと止まった。

「・・・あ、あの、忍足くんっ?」
「はい?」
「ご、ごめんねついはしゃいじゃってっ!部屋はあのままだけど、私はもう大人なのにねっ!結婚も控えてる年で何やってるんだろう、恥ずかしいっ・・・!」
「ああ。」

そっちか。
何か思い出したのかと思った。

「それは別に、可愛らしゅうてええんとちゃいますか。」
「かっ・・・お、お世辞言ってもお給金は上がらないよ忍足くんっ!」
「今お世辞言う意味あります?」

このくらいの意趣返しは許されるだろう。
頑張ってるんだから。
まあそう言う意味では、お給金上げてほしいけど。

赤い顔で、可憐は引き続き部屋を物色していたが、今度は顔色が少し変わった。

「・・・・・」
「どないしました?」
「ここ・・・」

可憐は机に座り、引き出しを開けていた。

中は空っぽである。
一度倉庫にしまわれた段階で、チェックされているから。

「引き出しですか?」
「この・・・ここにね?なんか、何度も手を入れてた気がする・・・」
「こんな奥にですか?」
「うん・・・」

奥に何度も手を。
ということは。

(・・・なんか、隠しとったんやろな。)

「・・・・・・」

忍足は自分の手を引き出しに当てて、高さを確かめて見た。
これなら、本が3冊くらいは入る。

「・・・・姫、確認なんですけど。」
「はいっ。」
「抜けた記憶て、王子のことだけやないんですよね?」
「そうなんだよね・・・結構、いろいろ細かく忘れちゃっててっ。今の所、支障とかはあんまりないんだけどっ。」
「例えばどんな、とかわかります?」
「えーっと・・・後から教えてもらったのは、当時の歴史学の先生の名前とかっ。お気に入りの人形の片付け場所とか・・・あっ。そうそう、月の王子様とかっ。」

月の王子様。とは、この国にある童話の一つである。

「私、すっごくお気に入りだったんだけどっ。」
「やろな。」
「えっ?」
「ああいや、何でも。続けてください。」
「そうっ?ええと・・・そうそう、でも私、好きだったこととか忘れちゃってたんだよねっ。半年くらい経ってからかなあっ?メイドさんが、姫、最近月の王子様を読みませんねって言ってきてっ。私、なんのことっ?って聞いちゃったっ。」
「今はどないです?」
「好きだよっ!最初だけ読んだら、すぐ思い出したから、大丈夫っ!内容も好きだったことも、今はちゃんと覚えてるよっ。」
「さいですか。」
「そういえば、昔はお気に入りだったから、図書室から部屋に持ち込んでたなあ・・・」
「ほんなら、取ってきます。」
「えっ!良いよわざわざ・・・じゃなくて、記憶に必要だったっ!そうだね、じゃあいるかなっ。」
「姫は休んどいてください。すぐ戻ります。」
「はあいっ。」






退室して、忍足はどっと息を吐いた。
ああ。
うっかり口走りそうになった。

(どないしたもんやろか・・・)

忍足は、可憐のことについて、誰にも知らない秘密がある。


昔、文通していたことだ。


忍足は父の付き添いとして、次期かかりつけ医として、幼少の頃より何度か城に出入りしていた。

そして、ある日見たのだ。
蔦を使って、自室を抜け出す可憐を。

危なくないのか。
と思ってこっそり自分も外に出て見守っていると、可憐は海にーーーと言っても、この城は城自体海にとても近いので、近所だがーーーに出て。

そこに、ボトルメッセージを流していた。

ただ、幼少期の可憐は、潮の流れを理解していなかった。
だから、そこに流してもどこへも行かないぞ、と思われる場所に流して、満足そうにしていた。

そしてその日、忍足が城をお暇するとなったタイミングで、父に頼んでボトルメッセージの場所に立ち寄らせてもらった所、やっぱり瓶はそのままであった。


忍足はそれを拾った。


「すいません。」
「あら、忍足先生。何か?」
「月の王子様、借りてもええですか。姫の部屋に置いときたいんですけど。」
「ああ!記憶の治療ですね。どうぞ。」

元々、ボトルメッセージなんて不特定の人間に拾われるものである。
だから、自分が拾っても構わないだろう。
忍足はそう判断し、返事を書くつもりで、家に持ち帰った。

理由はいろいろあると言えばある。
でも、総合的に考えると、あの時からすでに惹かれていたのかもしれない。

返事が来なくて悲しそうにするのは見たくなかったし。
きっと返事がくるに違いないと信じ切っている笑顔が可愛かったし。
ボトルメッセージという詩的な遊びをしているセンスも好ましかったし。

まあとにかく、忍足は家でそれを読んだ。
そしてすぐに、可憐が月の王子様を好きなのがわかった。

月の王子様は、庶民の主人公と異国の王子様が友達になり、世の中をよくする冒険活劇である。
ボトルメッセージ内の可憐の自己紹介は、名前が可憐であることと性別が女子であることは事実だった。だがそれ以外の設定は、すべて月の王子様の庶民側をそっくりなぞっていた。

ああ。あれ、好きなんだ。
忍足は一瞬でわかった。

だから忍足も、それに乗っかって、異国の王子様という体で返事を書いた。
そうして、文通が始まった。

結構長い間続いたのだ。
数年はやっていた。
数日おきに、メッセージを受け取って、送ってを繰り返した。
流石に、海がべらぼうに荒れた日とか、自分が体調を崩すなどして、出るに出られない時とかは延期になったけど。

しかし、それは可憐の落下事件で突然の終わりを告げた。
可憐の抜けた記憶には、ボトルメッセージのこともあって、それ以降可憐が瓶を流すことはなかった。

可憐の意中の人がどこかの王子と聞いた時、一瞬ギクッとした。
王子ではないけど、王子を偽ったことはあるから。

でもその後、すぐに黒髪の短髪という特徴が付け足されて、忍足の期待はすぐ消えた。
忍足は王子という体で会ったことなんてないし。
黒髪などの特徴も当てはまらない。
作中の王子も黒髪ではないから、すなわち可憐は、本当に意中の王子を見たことがあるのだ。
その時点で、絶対自分じゃないことは確定する。

可憐に教えないのは、半分意地であった。
どうせ実らない恋だから。
それなら問診票に書かれるより、2人の思い出にしておきたいという気持ち。

ただ。
いよいよもって治療しなくてはならないとなると、もはや伏せてはおけない。
多分関係ないけど、何がきっかけになるかわからない。
何でも良いから、思い出せ!な事態になったら、言わなくては。

可憐のために。

「戻りました。」
「おかえり、ありがとうっ!わあ、懐かしいっ!」

可憐は嬉しそうに本を受け取った。

「これ、大好きだったなあ・・・今でも好きだけどっ。忍足くんは好きっ?」

好きか。と言われると。

「・・・好きです。」

いっそ嫌いになれたら、いくらかマシだったかもしれない。
思い出の象徴のような本。