Camp school:Mountaineering 2 - 6/8


ぎゅるるるるる・・・・

「何だ今の音w」
「紀伊梨ちゃんのお腹ー!お腹空いたお腹ー!」
「15時を過ぎているからな。減ってもおかしくはない。」

昼過ぎから始まった登山だが、はたと時計を見るともう15時過ぎ。
何時もおやつを食べている時間にきっちりおやつを要求してくる紀伊梨の腹時計は、流石正確と言わざるを得ない。

「なんか食ーべよ!2人共何が良い?ポテチ?チョコビスケもあるお!」
「いや俺達は良いよw」
「というか、あるなら他のものにしろ。何か食べクズが出ないような物をだ。」
「ほーい。えーと、何にしよっかなー?あ!チョコがあったー!」
「板チョコは止めとけw溶けて別の問題が出るぞw飴とかにしなさいw」
「えー?飴は持って来たかなー・・・あ!あったあった!」

デイパックを前抱き状態で中のお菓子を探っていると、見慣れたお気に入りのキャンディーの袋が奥の方に見える。
しかし見えない角度で何かが引っかかっているらしく、掴んでいるのにスッとは取れず、紀伊梨はちょっと力を入れる羽目になった。

「ぐぬぬ・・・えりゃー!あ!」

「フッ!」

勢い余ってスポーン!と舞い上がった林檎味のキャンディーの袋。
それは紀伊梨の手から滑りぬけて頭上を通り、後方へとふっとんで・・・そして後ろに居合わせた真田の右手に捕まった。

「あー!真田っちだー!ありが「あー、ではない!何をやってるんだ何を!」

「真田だw彼奴も元気だなw」
「まあこの程度で真田はバテない。今大凡体力的には3割消費と言ったところだろう。」
「マジかよw」

全体の行程の8割はもう通り過ぎて尚、真田は紀伊梨にがみがみ言うエネルギーがあるわけだ。なるほど納得である。

「そもそも、歩きながら鞄の奥を探すな!両手が塞がったまま転んだらどうするつもりだ!」
「だって待てなかったんだもーん!お腹空いたんだもーん!お菓子食べたいー!」
「子供か!」
「いやいや子供だよw我々中1だぞ、そのくらいは大目に見てやってくれw」
「ほら、五十嵐。食べると良いが、デイパックはちゃんと背負い直してからにしろ。」
「やたー!」

いそいそとキャンディーを開けだす紀伊梨。
ああ、お腹空いた。飴類は厳密にはあんまり腹の足しにはならないが、無いよりはある方がずっとマシ。

「皆も食べるよねー!どぞどぞ!取って取ってー!」
「俺は要らん。これも鍛錬だ。」
「お前はそういう所真面目通り越して頭固いなあw貰っとけよ、その辺の飴じゃないぞこれはw」
「?どういう事だ?」
「確かに、スーパーなどで売っているような包装ではないな。何処かの土産品か?」

「あ!そーそー!これねー、青森のキャンディーなんだお!紀伊梨ちゃんのひいおじーちゃん達が居るの!」

紀伊梨の母方側の曽祖父母及び跡継ぎの叔父一家は青森のリンゴ農家なのだ。
農家として林檎を育てる傍ら林檎を加工した土産も細々と販売しており、このキャンディーもその1つ。自営している土産屋でしか販売されていない代物だが、味はお墨付き。
因みに五十嵐家は代々何故か結婚が早く、曽祖父母とはいえ未だに現役である。

「青森か、遠いな。」
「そーなんだよねー!もーちょっと近所に住んでてくれたらもっと遊びに行けるのに、夏休みしか遊びに行けないんだよー!涼しいからそれも良いけどー!」
「冬や春の休暇は・・・そうか、青森では出来んのか。」
「出来ないねえw冬の東北は夏と違って覚悟が居るぜw」

冬の積雪地域は観光客に厳しい。地元民にも厳しいのだから、他所の人間には尚更厳しい。

「しかし俺は行った事はないが、寒い地域の建物程本土より暖かいと聞く。それでも厳しいのか?」
「家の中はあったかいお!でもお外行けないんだよね!雪で埋まっちゃうし!」
「雪かきしてもすぐ元に戻るって言うよねw」
「加えて、長距離からの帰省となると生き返りの交通事情をどうしても無視出来ない。やはりリスキーと言わざるを得ないな。」
「そーなんだよー!5年生の時行った時なんて、もーずっとずっと雪降っててさー!冬休み終わっても青森から出らんなくてどーしよーかと思ったよー!」
「あったなあw覚えてるわ、お前だけずっと学校来なかったわw」
「そんなに酷いのか。東北新幹線なら積雪対策はありそうなものだが。」
「真田の言う通りだ。新幹線は積雪では殆ど止まらない。」
「新幹線はなw問題はどうやって駅まで辿りつくかなんだよw」

都会に居ると忘れそうになるが、田舎の方は基本歩いていける範囲に駅など無いのだ。
自然駅まで車を出すという発想になるが、それとて車が通れればの話。
除雪車を上回るスピードで嵩増しされていく雪の中、父は諦念は母は遠い目で窓の外を見ていたものだった。

「過酷だな。一度赴いてみたいものだ。」
「俺お前のその、「過酷」って言った後すぐ「行きたい」ってくっつけるところ好きよw」
「でも紀伊梨ちゃんも又行きたいなー!どれだけ雪遊びしてても雪なくならないし!ねーねー、皆で行こーよー!絶対楽しいよー!」
「無茶言うなwこんな大人数の中学生が冬真っ盛りの青森に旅行てw・・・柳?」
「やなぎー?どったの?」
「・・・いや。少し考え事をしていただけだ。考え事と言うか、まだ思いつきという段階だが。」
「えー!何々ー?」
「俺も興味あるwお前が思いつきなんて珍しいじゃんw」
「待ってくれ。隠すような事でもないが、もう少し纏まってから話したい。」
「にゃんだー。」

常日頃思いついた事を端から口に出すタイプの紀伊梨は、柳のこういう慎重さがいまいち理解できない。
早く教えて欲しいなー、なんて思いながらふと紀伊梨は左手の藪に視線を向けた。

「あ。」

猫だ。
間違いない、昼に見たあの黒猫である。

「ねーみん・・・ととと。」

騒ぐと逃げる。
とさっき言われた事を奇跡的に思い出した紀伊梨は、3人を呼び止めようと思って止めた。

猫は逃げることなくそこに居て、紀伊梨をじっと見つめてくる。

「猫ちゃんってキャンディー食べるかにゃ?ほーらおいでー。にゃんにゃーん。」

なんて言って猫に飴を差し出す紀伊梨だが、何か動物にやるのならまず包み紙を破ってやれよと言うべきであろう。最も猫に飴はタブーなのでこの場合は却って良かったかもしれないが。

「・・・・・・」
「ありー?キャンディー嫌いー?じゃあ・・・あっ!」

じゃあ他のお菓子をと鞄を開けようとして、大袋から飴が1つ転がり落ちた。

「あー!うにゅー、まあしょーがないかー。えーと他の他の・・・」

「あ、居た居たw」
「おい!勝手に消えたと思ったら何をしているのだ!」

はっと顔を上げると、棗と柳と真田がこっちに向かっていた。
猫に気を取られて足を止めた紀伊梨だったが、そうとは知らない3人は居ないと気づかず少し進んでしまっていたのだ。

「あ!ごめーん!」
「怪我でもしたんw」
「ううん!猫ちゃん居たの!」
「何処にだ?」
「へ?」
「何処にも居ないが。」
「え、そこに・・・あり?」

振り向くと、猫はそこからすっかり居なくなっていた。

「あーん、逃げちゃったー・・・」
「逃げちゃった、ではない!勝手に居なくなるな!立ち止まるのは良いとしても、一声かけてからにせんか!」
「だってー!大声出したら逃げるって皆が言うからー!」
「一声かける事と大声出す事は別に=じゃねえぞw」
「まあ何にせよ、五十嵐は無事で猫は逃げてしまった。行こう。」
「はーい!」

紀伊梨は気が付かなかった。
落としたはずの飴が、猫と共に消えている事に。