Camp school:Mountaineering 2 - 7/8


「着いた・・・!」

ある種悲痛にも思える叫びが紫希の口から零れた。

此処は郁のスマホを見た地点から、ぐるり一周分下った地点。そう、紫希はとうとう引き返しきったのである。なんという達成感。やったね自分。

(い、いえまだやってません・・・スマホを見つけて初めて「やった」って言えるんですよ・・・)

そう、本題は此処から。
位置確認をしながら下りてきたので大凡の位置は此処が正解で間違いないが、藪に引っかかったスマホを今度は下から見上げる事になる為、何処に引っかかっているか今度は見えなくなる。

どうしよう。
手当たり次第にガサガサ揺らすとしても、素手はなるべく避けた方が良い。

「あ、そうですこんな時は棒を・・・」

山には棒がつきものである。
その辺に転がっているという意味でも付き物だが、こんな風に山では何かと世話になる場面があると言う意味でも付き物なのだ。

「ええと、棒、棒・・・」

そうだ、もっと早く棒を入手すればよかった。今だけじゃなくて、体力の弱い自分の3本目の足にもなってくれたに違いないのに。

「棒・・・・棒・・・ああ、これは短いです。棒・・・」

「・・・・・」

「ううん、見つからない、棒・・・棒・・・」

「・・・ぷっ、ははは!」

「え?・・・あれ、丸井、君?」

丸井はおかしくて堪らなかった。
自分が近づくのにも気が付いていない紫希が、何をそこまで集中してるのかと思ったら「棒」と呟いてひたすら棒探ししているのだ。
紫希も人に見られて居たんだと思ったらじわじわ顔に熱が集まってきた。ああ恥ずかしい、変人じゃないか自分。

「ち、違うんです、これには理由があって・・・!というか、丸井君はどうしてこんな位置に・・・」
「俺?俺はスマホ探しに?」
「スマホ・・・?」
「元々もっと上に居たんだけどな。一条と歩いてたら、彼奴躓いてスマホが下に落ちてったんだよ。で、スマホ無い奴1人で歩かせるの怖えから俺が取りに来たんだけど。」

紫希は目を丸くした。なんと偶然。

「わ、私も一条さんのスマホを見かけたので、拾おうと思って来たんですけれど・・・」
「マジ!?何処で見た?」
「それがこの辺りなんです。なんですけれど、私上から藪に引っかかった所しか見えなくて・・・だから、この辺りの木なんかを揺らして探そうとして・・・」
「ああ!それであんな必死に棒、棒って・・・ふ、くくくっ!」
「もう笑わないで下さい・・・!」
「ははは!悪い悪い、馬鹿にはしてねえって。」

なんて言ったらわかってくれるんだろうか、この感覚。
確かにおかしいんだけど、指差して間抜けだのなんだの言いたいわけでも思ってるわけでもない。でも何故か込み上げてくると言うか零れてくるのである。こう、見ていたいような捕まえたいような可愛らしさみたいなものが、笑顔になって。

「でもま、手あたり次第揺らすってのはもうしなくても大丈夫だぜ?」
「え?」
「じゃーん♪」
「・・・あ!い、一条さんのLINE・・・!」
「そ。これで鳴らしてやったらどっかでバイブが鳴るらしいから、この辺って分かってんだったらもう後は見つけたようなもんだろい。」

(すごいです丸井君、もう連絡先を教えて貰えるなんて・・・)

これが高コミュ力の人間が本気を出した結果というやつか。流石。

「じゃ、早速・・・おし、鳴ってる!」
「ええと・・・ええ・・・あ!あそこ、落ちてます!」

郁のスマホは、2人が辿り着くまでの間に自重で落ちていた。
草に隠れて見つからなかったのだ。

「どう?壊れてる?」
「いえ・・・ちょっと画面の端にヒビがありますけど、多分大丈夫です。」
「そっか!良かった。」
「はい、良かったです。間違って踏んでしまうところでした・・・」
「ただ、カバーはもう駄目だな。」
「はい、これだけ泥だらけだと・・・本体が無事で良かった、と思ってもらうしかないですね。」

触ってもしまってもどうしたって汚れてしまうので、紫希はデイパックに入れてあったタオルでスマホを包んだ。

「じゃ、行くか!」

トラブルが1つ良い形で解決をみて、明るい声音で丸井が言った。
が、それに水を差すかの如く、ふっと2人の視界が陰った。

「ん?」
「ああ、雨雲が・・・降るのかもしれません・・・」
「ぽいな。嫌な展開だぜ。」

只でさえ外に居る時の雨はうんざりするというのに、登山中の雨なんてその比ではない。
というか、うんざりとかそんな緩い感じでは居られない。雨中の山は危ないのだ。そこかしこに発生するぬかるみ、滑り、その他いろいろなリスクが一気に降って湧いてくる。

「登りきれるでしょうか・・・」
「厳しいだろい。最低後1時間くらいはもって貰わねえと、って感じだけど。」
「とても無理ですよ、ね・・・」
「まあでも雨具は、あ!やべ、いらねえと思ってでかい方の荷物に入れちまったんだった・・・」
「・・・・・」
「春日、持ってる?いや、持ってても1人分じゃどうにもなんねえか?町中でもねえしな。」
「あの・・・」
「取り敢えず行ける所まで行って、後は振りだしたら止むまで待つってのもありかも・・・ん?何?」
「離して貰えますか・・・」

すんごく自然にさらっと、丸井の手は紫希の手を取っている。しかも丸井はそのまま思考を続けるので、逆に突っ込むタイミングに困ってしまう始末。

「あ、悪い。」
「あ、いえ、悪いと言うか・・・何ですか?どうしたんですか?」
「えー・・・くせで?つい?」
「くせ・・・!?」
「くせっつうか、ほら!何かこう、無意識?危ねえなって思ったらやっちまうんだよな、多分。ほら、チビ達と良く遊ぶし?」

(ああ、頼りないんですね私・・・)

自覚あるし事実なんだけど、こうやって態度に示されると流石の紫希もちょっと凹む。
千百合や紀伊梨ならきっとこうはならないんだろう。というか、こうなるのは自分だけなのかもしれない。

保護しようとしてくれるその気持ちは嬉しい。とても嬉しいんだけど。

「・・・どした?」
「いえ、何でも・・・それより、登る事を考えましょう。私、雨具の方を傘と合羽と両方持って来てますので。」
「マジ?」
「はい。なので1つづつ使えば2人共ある程度は濡れずに・・・」

どうにかこうにか進む手段を考える2人。
しかし考えを詰める前に、後ろから声がかけられた。

この場合は、幸運にもと言うべきだろう。


「あ!居た!おーい、お前ら!」


「お?」
「あ・・・新海先生!」