「じゃあこれ出来るー?」
「お、よしゃ!せーの、はぷっ!」
紀伊梨はさっきから、あれ出来る?これ出来る?じゃあそれは?みたいな大道芸披露みたいな事をしていた。
今は見よう見まねで水中で後転を試みているところである。
「・・・ぷはっ!どお?どお?出来てた?」
「すごーい!」
「もっかいやってー!」
わあわあちびっこに群がられる紀伊梨。
を、真田は子供の指導をしつつちらちら注意して見ている。
「ああしていると、絵面はいっぱしのアイドルに近いかもしれないな。」
「柳か。」
「心配か?」
「ああ。彼奴は熱中すると周りが見えなくなる。いつか子供を巻き込んで事故になる気がしてならない。」
「気持ちは分かる。」
なんて話していると、真田の足元で潜水していた子供が上がってきた。
「ぷは!う~・・・」
「おい!何度言えばわかるのだ、息を吐け!止めていたら苦しくなる一方だぞ!」
「吐いたらもっと苦しくなるよ!」
「ならん!やってみろ!」
「やだ、怖い!」
「臆するな!」
笑っちゃいけないと思いつつ柳は笑ってしまう。
「真田もいっぱしの先生に見えるが。」
「そもそも彼奴がいかんのだ!調子に乗って後のことも考えず先生先生と・・・おかげですっかり俺はどこぞの水泳講師ではないか!」
「え?先生って先生じゃないの?」
「だから最初から違うと言ってるだろう!」
「でも皆先生って呼ぶじゃん。」
「~~~~~~!」
「まあまあ抑えろ。子供に非はない。俺は五十嵐を見てくるから、お前はこっちを気にしないで教えてやると良い。」
あんな事言ってるが、真田はあれで面倒見が良いのである。
子供好きと言うより、誰かに頼られると、知るかと言って捨て置けない性格をしているのだ。
微笑ましさを感じながらざぶざぶ紀伊梨の元へ行くと、紀伊梨は子供に囲まれながら、水面を向いて鼻をつまんで仰向けで潜水している最中であった。
「何をしているんだ?」
「あのねー、輪っか作ってもらうの!」
「輪・・・ああ。」
バブルリングだろう、多分。
出来るんだろうかとか思って見ていると、リングじゃないただの気泡がブク、ブク、と浮いて出てきて、終いに紀伊梨が水面から顔を出した。
「ぷはあっ!あーん、また出来なかったー!・・・お、やなぎー!」
「バブルリングを作っているらしいな。」
「そーなんだよー!さっきもやったんだけど出来ないんだよー!」
「お姉ちゃんもっかいやってー!」
「ねーねーもっかいー!」
「お前は先生と呼ばれないのか?」
「そー!そーなんだよそれそれ!ほらー!皆も紀伊梨ちゃんのこと先生って呼んで!」
紫希も先生と呼ばれてないが、それは分かる。完全に教わる側に回っているからだ。
だが紀伊梨はさっきから色々やってみせているようだし、先生すごーい!と言って尊敬を集めてもおかしくないと思うのだが。
「・・・なんか。」
「ねー。」
「せんせーって感じじゃなーい。」
「えーーー!」
柳は笑ってしまった。
正直気持ちは分かる。
「まあそう怒るな。親しみやすいという事だ。アイドル志望としては先生のような空気でない方が有利だろう。」
「そうだけどー!でも偶にはさー・・・」
「それよりも、バブルリングはどうした。」
「そうそれー!」
「やってやってー!」
「おお、そーだった!よしゃ、じゃあえーっとー!あれじゃ出来なかったから次はー。」
「もっと仰向けになれ。」
「お?」
いつの間にか柳の周りにもわらわら子供が集まっている。
何人か自分達でもやる気な感じの子供も居る。
「まず、顔と水面を平行にすることだ。真上を向いてるつもりでも、水中では意外に出来ていないと思った方が良い。少しのけ反るくらいの気持ちでやれ。」
「ほうほう!」
「そして、勢いよく沈むのは止めろ。波が立っているとやりにくい。なるべく静かに沈んでいくことだ。」
「ふんふん!」
「最後だが、息を吐くときはだらだらと吐くのはやめろ。一気に勢いよく、遠くの蝋燭を吹き消す気持ちで吹け。そして吹いたらすぐ口を閉じろ。」
「ほー・・・」
「どうだ?出来そうか?」
「多分!」
この手のことは言うは易く行うは難しなのだが、紀伊梨はいとも簡単に多分出来ると言う。
そして大抵、本当にやってみせるのだ。
「よっしゃ再チャレンジ!紀伊梨、いっきまーす!はあ~・・・」
とぶん・・・と言われたとおりに静かに沈む紀伊梨。
言い出した柳でさえ、ちょっとびっくりした。やれと言われてここまで即応出来るものなのか。
そしてそのまま言われた通りのけ反り。
ぷうっと頬が膨らみ。
・・・ゴボッ!
「「「「「あ!」」」」」
綺麗とは言えないが、確かに輪になった泡が出た。
「すごーい!」
「綺麗ー!」
「・・・ぷはあ!ねー出来てなかった!?今の出来てたよね!?」
「出来てたー!」
「やったー!」
「「「「出来たー!」」」」
何か凄い偉業を達成したかのように、わーっしょい!わーっしょい!と喜びまくる紀伊梨と子供達。
楽しむことに関しては紀伊梨は本当に才能があると思う。
「せんせー!今の俺にも出来る?」
「私もやりたい!」
「私も!」
「ちょっと待ってちょっと待って!ねー!どーして皆、やなぎーは先生なのさ!」
「「「「先生っぽいから。」」」」
「そーだけどー!」
「ははは。」
笑い声は絶えない。