My treasure 2 - 4/6


「紀貫之というのは、ええと・・・かいつまんで言うと、昔の作家の方です。紀貫之は男性なんですけれど、当時は女性を装ってというか・・・わざと女性の書き方で作品を書いていたんです。ですから書き方が男性的であっても、男性を装った女性が書いた、という可能性も捨てきれないということで・・・」

紫希、丸井、仁王、柳生の班は、紀伊梨達から「差し当って山がゴールということになりそう」との一報を受け、湘南の歴史のブースの中から該当の山に関する記事がある部分を探していた。

「ふう・・・」
「お疲れ。」
「しかし、山とは。喜べば良いのか悲しめば良いのかわかりませんね。」
「辿り着くまでがハードそうじゃの。」
「そう?ビルが建ってるとかより良くねえ?」
「確かに、探せそうではありますよね。」
「お前さんが一番ついてこれなさそうじゃが、大丈夫なんか。」
「が、頑張ります・・・」
「大丈夫、大丈夫!こんなに人数居るんだぜ?何とかなるだろい。」
「人数って関係あるんかの。」
「まあ、少人数であればあるほどタスクが増えて体力の減りも早いですから。春日さんほどではないとはいえ、黒崎さんもスタミナ自慢のようなタイプでは・・・ああ、この辺りですね。」

暫定で宝があるのではとされている山ー--日武(ひのたけ)山は、丁度良いというかなんというか、多少は整備されているものの、今は基本手つかずになっているような山であった。

「日武山に宝があるかもしれないとは、思ってもみませんでしたね。」
「お。知ってる山って感じ?」
「実は、別荘があるのです。とはいっても叔父の物ですが。」
「じゃあ、柳生君は何度か登られたことなんかが・・・」
「ええ、ありますよ。とはいっても、ものの数回ですが。」
「へー。でも、全然知らないより良いだろい?」
「いえいえ残念ながら、全く知らないのとほぼ同じですよ。まあ強いて言うのであれば、大層なものは何もない事はわかっていますが。」
「ほう。そりゃあますます探しやすそうじゃの。」
「あ!ありましたよ、日武山の歴史・・・ええと、江戸の時には街道があって・・・」

日武山は、現在の物差しから見て語るべきようなことはあまりない山であった。だから、ブースがあると言ってもほぼ内容は無い。
わかるのは道が通されていること。ちょいちょい施設が建っているが、放置されているものもいくつもあること。大きい山ではないこと。

「行方不明者はこれまで0人、熊は居ないが猿と猪は居る、へえー。」
「猿は少々厄介ですね。」
「熊と違って、鈴じゃ逃げんからの。」
「確か、目を合わせないで、刺激しないで居るのが良いんです、けど・・・」
「「「・・・・・」」」

無理じゃないか。若干1名が、主に。
と全員思ったが、もうしょうがない。皆で抑えるしかない。

「まあ、他には特に心配もなさそうじゃな。」
「そうですね。さほど険しくもありませんし、登頂が目的でもありませんから。」

(登頂・・・)

紫希の脳裏を過るのは、林間合宿で結局登頂できなかった時のことであった。
あの時は郁のスマホ落としや雨などイレギュラーもあったが、それを差し引いても果たして登頂できたかどうか。

(今度はもっと頑張りませんと・・・皆に遅れないようにして、そうです、今度はちゃんと早い段階で棒をー--)

紫希ははっとした。そういえば、林間合宿の時は棒を探していた所を丸井に見つかって、笑われたんだった。

そう思って丸井の方をふと見やると、その丸井は紫希を見ながら、今の時点ですでにおかしそうに笑っていた。

「・・・・なんですか・・・」
「いや?思い出し笑い。」
「・・・・・・」
「何でもねえって。」
「・・・棒。」
「・・・っ、あっはっはっはっは!折角我慢しといてやったのに、ははははは!」
「~~~~!」

腹は立たないけれど、顔から火が出るほど恥ずかしい。

「もう止めて下さい・・・」
「悪い悪い、つい。」
「・・・山登り一つ満足にできないのは事実ですけど・・・」
「今回は登頂が目的じゃねえだろい?さっき柳生も言ってたじゃん?」
「でも体力が無いのは事実です・・・登ったらその分は降りなきゃいけませんし、物を探すとなったら移動はしないといけないですし。」

山の移動は、それだけで体力を持っていかれるのだ。
ましてただ歩くだけじゃない、宝を探しながらの移動になるから、なおさら体力は削られるだろう。

「ですから、今度はちゃんと準備します。ちょっとでも長く、歩いたり登ったり降りたりできるように・・・・」
「ふうん?ま、あんまり・・・いや、良いや。」
「え?」
「無理すんなよって言おうかと思ったけど、するなって言ってもしそうだから良いかと思って。」

紫希はちょっと目を見開いた。

「・・・しても良いんですか?」
「え?すんなって言ったら言う事聞くわけ?」
「・・・・・・」
「あはははは!だろい?だから良いよ。」
「う・・・でも、ありがとうございます。いつも止められてばっかりなので、嬉しいです。」
「どういたしまして?」

ちょくちょく妙な所で喜ぶよなあ本当に、とか丸井は思うのだが。
まあ、紫希が嬉しそうなのはおおいに結構なので、良しとしよう。

(ま、何かあったら助けてやったら良いしな。)



「・・・とでも思ってるんでしょうね。」
「まあそうじゃろうな。」

山の歴史をメモに写す柳生と、覗き込む仁王はひっそり会話していた。

「丸井らしいといえばらしいがの。」
「しかし、今回は微笑ましいだけでは済まない可能性がありますので。注意は必要ですよ。」
「?山じゃき、っちゅうことか。」
「ええ。山は・・・というか、自然は怖いんです。まして今回は登山ではありません。すなわち、道なき道を進まなければいけない可能性もありますからね。」

とかいう柳生も、内心ではそこまでは危惧していない。
結構な人数が居るし。無理と思ったら引き返すなり止めるなりなんなりすれば良いのだと思っていた。

まだ、この時は。