「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
紫希は丸井を探して、山道を登っていた。
が、柳の言う通り、登っても登っても丸井の影も見えない。流石に、引き返すしかないのかと思い始めていた。
紫希を引き留めているのは、違和感。ただそれだけだった。
そして、とうとう見つけてしまった。
「はあ・・・あれ?」
紫希が見つけたのは、宇井トンネルの反対側。丸井が入っていった方である。
丸井と違って他に気を取られず、丸井を探してきょろきょろしていた紫希は、落ちることなくトンネルの出口を山道の上から見つけることができた。
普段ならあ、ここ出口なんだーで通り過ぎるだけだが。
「・・・・・・・・」
紫希は、スマホを取り出した。
丸井に電話をしてみる。
『ー----・・・・おかけになった番号は、現在電波の届かない所に居るか、電源が入っていないためー---』
「・・・・!」
紫希は血の気が引いていく思いがした。
さっきから確かに電波は悪いけど、悪いだけで繋がることは繋がるのだ。
繋がらないとなると、そう。
トンネルなら、電波は入らない。
紫希はしゃがみこんだ。
(何か・・・何か、人が落ちたような痕とか・・・)
とりあえず、血の跡はない。それだけでも紫希はいくぶんホッとした。
他に何か手掛かりはないか、と思い辺りを探していると。
「ええと・・・ええと・・・あ!」
神様が味方したー--この場合、味方したと言えるのか微妙だが、とにかく紫希はそれを見つけた。
板ガムである。
未開封の、グリーンアップル味。
不思議なもので、こういったものはひとつ見つけると、次々に見つけられるようになる。
よく見たら、下の方にもぽろぽろと落ちている。
「・・・・・・・」
一応ガムはただ落としてばらまいただけで、電話が通じないのもたまたま木が茂っている場所に居るからという可能性も、あるといえばある。
でも、そうでない可能性の方が高い。
なら、行こう。
行く。
廃トンネルの中なんてどんなトラブルがあるか知れたものじゃない。助けに行かないと。
そうと決めたら、紫希は迷わない。やるべきことがくっきりした時、紫希は紀伊梨に劣らず行動が早い。
(手をついて四つん這いになって・・・足から落ちるように・・・)
「うう・・・」
紫希はくらりとくる感じがした。
高い。垂直とは言わないが、急斜面だ。とても二足歩行状態じゃ降りられないと判断した紫希は、斜面の方を向く形で、足から降りることにした。ずるる・・・とずり落ちる様に着地できたら、それが最善だ。
「はあ・・・・はあ・・・・」
怖い。いや、怖くない。の自問自答をひっきりなしに繰り返す。
怖いとか言ってる場合じゃないんだ。丸井が危ないかもしれないんだ。無傷の自分が何を怖がる。
(ゆっくり・・・ゆっくり・・・)
「はあ・・・は・・・っ!?きゃああっ!」
紫希は、中間あたりで足を踏み外して落ちた。
丸井よりは低い位置から落ちられたが、丸井の様に受け身も取れない運動神経最低ランクの紫希は、思いきりべちゃっと落ちて体を打った。
「いた!・・・・う・・・はあ、」
こんなことやってる場合じゃないのに、とか思いながら紫希は体を起こした。
ついた手が、膝が痛い。
「あ・・・」
手の甲から出血してる。切れたのだ。
しかし紫希は、取り敢えず後にすることにした。まあ出血くらいは良い。取り敢えずもう、これ以上落ちることはないから。自分にとってはそっちのが大事。
紫希は改めて、落ちた地点の付近を見た。
散らばる板ガム。そして通行止めの反対側。
(こっちは塞がってる・・・登れない・・・から、やっぱり、落ちたとしたら丸井君はこっちに・・・)
スマホのライトを付けても、その光ごと飲み込むような、真っ暗なトンネル。
がれきしか見えない。
何も聞こえない。
もう夕方だ。ドンドン暗くなってくる。まだ紫希はトンネルに入っておらず、ここは外だが、じきにここすらも日の光が届かなくなるだろう。
『夜のトンネルって気味悪い・・・』
『あれ?そこに女が居たよな?』
『おい、止めろよ!』
『違うって!本当に・・・』
「・・・・!」
紫希はブンブン首を横に振った。
あれは映画だ。作り話だ。幽霊なんて居ないー--いや。
(もしも・・・もしも本当に居たとしても・・・)
そこに丸井がー--友達が居るのかもしれないのなら。助けを求めてるかもしれないのなら、怖いとか言ってる場合じゃない。
「はあ・・・・・」
ぐ、と息を呑んで、紫希はスマホのライト片手にトンネルに入った。