My treasure 4 - 4/8


「おい!五十嵐!止まれ!」

(くそ・・・!)

紀伊梨は全然止まってくれなかった。
真田の声は大きいが、小さくて聞こえない・・・というより、集中しすぎて何も聞こえていないのだろう。

すぐ追いつくと思っていたが、真田の予想より足場が悪かった。平坦な道では真田に追いつかれる紀伊梨でも、悪路はスピードの差を埋めてしまう。

(まあ、そもそも猿を追っているのだから、やわな道を通ってくれるわけもないか・・・いや!分析している場合ではない!)

気を抜くと見失ってしまう。
もう日も暮れだしている。下手を打つと、2人揃って怪我とかそういう事態になりかねない。

「五十嵐!・・・五十嵐!?」
「んお?おおおおう!?」

紀伊梨はなんと、急ブレーキをかけた。
人も車も、急には止まれない。

真田が追ってきている事に全然気づいていなかった紀伊梨は、思いきり真田に突っ込まれて、2人まとめて斜面から足を滑らせた。

別に崖とかじゃない。落ちても十分戻れるだろうが、痛いだろう。

「ー---くそ!」

こういう時は、下手にすぐ立ち上がろうとするより、身を丸めて転がって止まるのを待った方が良い。
受け身の取り方を心得ていた真田は、紀伊梨を反射的に抱き寄せてそのままごろごろ転がって下まで落ちた。

止まった、と思った瞬間、ゴン!と後頭部を何かに強か打ち付けたのは、不幸と言うべきかなんというか。

「~~~~~~~!な・・・なんの、これしき・・・!」
「・・・・ほー、びっくり・・・あ、真田っちだいじょーぶ!?」
「ああ、別にどうということはない・・・というより、まず人の話を聞け!いきなり走り出すな!」
「ひー-ん!ごめーん!」

このやり取りの間、紀伊梨はずっと真田の上に乗っているのだが、びっくりするくらい何も感じないことに、真田は内心でちょっと驚いていた。
甥の左助に乗られてる時と、何も感覚が変わらない。

というか、重い。

「おい、降りんか!」
「あ、ごめんごめん!やー、お猿さんが方向転換しちゃったからさー・・・って!そうだお猿お猿!」
「待て!そもそも、この山中に何匹居るかもわからない猿を追ってどうなるとー--」

「ふつーのお猿じゃないよ!やーぎゅの鞄持ってるお猿だよ!」

真田は目を見開いた。

「・・・見えたのか!?」
「んーん。でもねー、ぶーって音したの。」
「ブー・・・?」
「スマホの音ー!ブー!ブー!って言うっしょ?でもお猿さんは普通スマホなんか持ってないじゃん?だからやーぎゅのを持ってるのかなーって!」

柳生の荷物は、動きやすいようにと小さく小さくしたのが裏目に出て、猿に奪われたときに「持ってるのか持ってないのかわからない」という事態を招いてしまったのだ。

じっくり見られるのならそりゃあ簡単にわかるが、動いていて山の中で、しかも正面に居るわけでもなく人間の頭上をびゅんびゅん移動するものだから、視覚的な確認は非常に困難。

でも紀伊梨なら、目に頼らない探索ができる。

「それならそうと早く言わんか!どっちだ!どっちへー---」

そう言って慌てて起き上がろうとした時だった。
地面についた真田の手が、何かを捉えた。

「これは・・・・・」
「え?なーに?石?」

それは石だった。
そりゃあ山の中なんだから、石くらいはあるだろう。

ただ、この石。

(丸い・・・川があるわけでもないのに、やたらに滑らかだ。おまけに地面に埋まっていて、続いている・・・)

石はまるで足跡の様に、更に下へ続いていた。
もしやと思い、真田が上の方にあった枯葉をどけると、上にもある。

つまり、わかりにくいが石の道みたいなものがあるのだ。道というか、ほぼ目印でしかないけど。

「おー・・・何か丸い石がたくさーん!」
「おい、猿が向かった方向はこっちか?」
「うん!」

(一致しているな・・・)

たまたまなのかどうか知らないが、どっちにしろどっちも気になるから渡りに船。
真田は紀伊梨と一緒に、盛大に落ちてしまった斜面をもう一回登った。

「えいしょ、えいしょ、うおっ!あぶぶ・・・」
「む、おい。石に足をかけろ。」
「え?」
「先から見えている、丸い石があるだろう。そこを踏むように進め。良い足がかりだ。」
「あ、なるへそー!」

そう、この石。今気づいたが、斜面を登る足場として、すごく便利。もうここまできたら確定だが、この石は人為的なものだ。いつ誰が何目的でやったのか知らないけど。

(この山は県のものと聞いていたが・・・役所の人間は、このことを知っているのだろうかー--)

「む。」
「あー、とげとげフェンスー!」

ほぼ落ちる前の位置まで戻った時だった。猿の逃げた方向には、さんざん見た有刺鉄線付きのフェンスが張っていた。

が。

「・・・・・・いや。」
「え?何か嫌なの?」
「その嫌ではない!何かあるはずだ。この辺りに他と違う所が、どこか・・・」

怪我をしないように、真田は注意深く探っていく。
植物の蔓が絡まりまくっていて、すごく難しいが。

「・・・・む!」
「お、何々!?・・・あー!」

すごくわかりにくいが、一枚だけ門になっている。見た目はほぼ他と一緒だが、開閉可能だ。
とはいっても、草に覆われてるせいで、まともに動かすのにはそこそこ力が要りそうだが。

「む・・・やはり、多少力を入れる程度では開かんな。五十嵐、離れておけ。力づくだ。」
「ほいほーい!」

ここで力づくになるあたりが、真田が頭脳派になりきれない所である。
道具を使うとか、そういう発想にならない。まず自分を頼る。

「ぐぐ・・・・ふん!」
「おー!やったー!」

ぶちぶちぶち!と雑草が千切れる音がして、とうとうフェンスが開いた。
そして、開いたと同時に、何かがぴゃっ!と動いた気配がした。

「む?」
「あ!お猿さんだ!」

猿はじっと木の上で、じっとこちらを伺っていた。

この辺は人が入ってこないから、木の実などが落ちまくりで、良い餌場なのである。
ゆっくり飯食っていたら、人が入ってきて警戒しているのだ。

そして。

「あー、やっぱり!あれやーぎゅの鞄っしょ?」
「ああ。黒い色で、腰に巻く形の鞄。間違いあるまい。」
「よしゃよしゃ!おーいーでー、おーいーでー、」
「招いて来るようなものでもなかろう。そうだな・・・あまりよくはないが、背に腹は変えられん。」
「お?何々?」
「非常時用として取っておいた食料を出そう。向こうが木から降りんことには、話にならなー--」
「あ!」

リュックを開けている途中で、猿はまた木の上を進み始めた。
今度は走る必要はなさそうなくらいのスピードだが、止まる気配がなくひたすら進んでいく。

「えー、どこ行くんだろー?お家帰るのかなー?」
「・・・・・」
「ねー真田・・・あれ?真田っちどったの?」
「・・・いや。」

猿に気を取られて一瞬忘れていたが、そもそも此処は人が目印っぽいものを置いていて、扉を付けていた敷地の中である。
今は木しか見えないが、進んだ先に何かがある可能性は高い。何かは知らないけど。

(この先に宝が・・・いや!宝どころか、危険なものがあるやもしれん!気を抜かんようにせねばならん。俺はともかく、今は五十嵐も居ることを考えて・・・)

なんて思っていた、丁度その時だった。

「・・・わっ!」
「五十嵐!?」

前方に居た、紀伊梨の姿が消えた。

真田は一気に血の気が下がった。
山でこういう場合、大体は急斜面かもしくは崖である。

「五十嵐!無事、か・・・・・」
「・・・・わあああああー!すごー-い!」

急に開けた所に出た。

紀伊梨が落ちたのは、斜面は斜面だったが崖ではなく、すり鉢状のようにへこんでいる地形だったというだけの話だった。
だから紀伊梨は尻もちをついただけで済んだし、もっと言うと転んだけど全然痛くなかった。

辺り一面に咲いている白い花が、クッションになってくれたからである。
総観という他ない綺麗な光景に、真田は息を呑んだ。

「きれいきれーい!あー、もっと明るいときに見たかったなー。」
「む?そうか、確かにそうだな。」

何だか夢中になっていたが、もう夕暮れである。
木の影に居るから視界が悪いのだとずっと思っていたが、それはそれとして普通にもう暗くなってきているのだ。

「・・・・!おい、猿はどうした!」
「え?あ、そーだそーだ・・・・って!こらあ!真田っち後ろ後ろ!」
「む?こいつ!」

猿はなんと、紀伊梨と真田が花に気を取られている隙に、真田のリュックにまで手を出そうとしていた。

慌てて振り向いたが、時すでに遅し。
ちゃんと背負っていたからリュックは無事だったが、ファスナーはしっかり開けられていて、中に入れておいた米菓子を盗られたのを真田は何とか視認できた。

「く・・・・!なんたる不覚!」
「あーん、お菓子がー・・・あ!」
「今度は何だ?」
「真田っち、あれあれ!」
「・・・!あれは、」
「やったー!やーぎゅの鞄が返ってきたー!」

食べ物の類を全部抜き取られ、用済み認定された柳生の黒いポーチは、白い花畑の中でとてもよく見えた。