千百合は現状に手を貸している。
そのことは、幸村にもとうに察しがついていた。
本当に千百合が嫌がってるなら、もっと抵抗するだろう。あんな風に、座してじっとなんてしていない。
それはそれとして、助けないという選択肢はないけれど。
『あなたは、王子様役なの。幸村君・・・囚われのお姫様を助ける所、見せてくれるよね。』
(ん?)
幸村は少し眉を上げた。
王子様役。
囚われのお姫様を助ける。
・・・それが見たいのか?
(いや、でも・・・見てどうするつもりなんだろう。鳴海先輩に何か得があるように思えない。)
分からない。
目的は分かったが、そこに至るまでの動機が今度は見えなくなった。
『・・・それから、本当はこれは予定外だったんだけど。前哨戦をするね。』
ん?という声が、幸村だけでなくそこかしこからも上がった。
2-Dの人間すらも、こんなのは聞いていない。
当たり前である。鳴海が今、即興で決めたのだから。
『幸村君、もうひとり選んで良いよ。ここに居る一条郁ちゃんを助ける人を選んでね。』
今度こそ幸村は目を大きく見開いた。
『巻き込むつもりはなかったんだけれど、成り行きで巻き込んじゃって。でももう、どうしようもないから・・・選ばれた人は、幸村君の前にコースに挑戦してもらうね。』
これは鳴海の気遣いであった。
実際の所はいじめの末にということになる。
しかし、ほぼ全校生徒が集まっているこの場で事のあらましを説明すると、とんでもないことになるのも本当だ。
たとえ自分に非が無くても、いじめられてると人に言うのは勇気が要るし。
だから、取り敢えずこの場では自分が悪者になることにしたのだった。
どうせ悪者だから、罪が一個増えた所でいまさらだ。
『もしかしたらその過程でコースのどこかが機能不全になるかもしれないけど、それはハンデって事で。だから、なるべく余裕でクリアしてくれそうな人を選ぶと良いよ。』
(なるほど。コースを壊す気なのか。)
いや、壊す気、とまではさすがに言い過ぎかもしれないが。
でも壊れたら、それはそれで良いと考えていることは確かだった。
『わかってくれたかな?』
幸村はス、と右手を上げた。
質問があります、のアピールだ。多分マイクなしでは、声はあそこまではっきり届かないだろうから。
『誰か、幸村君にマイクを。』
鳴海が言うと、近くに居た女生徒が、平然とマイクを譲ってくれた。
2-D全員内通者と言うのは、どうやら本当らしい。
幸村はマイクを受け取り、スイッチを入れた。
「・・・・・・・」
ゴールを見上げた。
愛しい彼女。
そしてその彼女を、何故か人質にする先輩。
何も言わない部長。
何故かいる新人マネージャー。
全員を結びつけるには、情報が足りなさすぎる。
『・・・鳴海先輩、幸村です。』
ギャラリー全員が、スタートに佇む幸村を見た。
幸村本人は、意に介していないけど。
『質問が許されているようなので、お言葉に甘えてお聞かせ願いたいことがあります。』
『・・・どうぞ。』
『なぜこんなことを?』
ここがわかれば大体のことは想像がつく気がした。
でも反面、多分教えては貰えないだろうとも思った。
『・・・幸村君が辿り着いたら、黒崎さんから聞いて。』
(やっぱり駄目か。)
まあ、これは想定の範囲内だ。
次。
『あなたが千百合を捉えているのはわかります。一条郁さんに関しましても、まあ立ち位置はわかりました。ですが、佐川部長はなぜ居るんですか?』
鳴海は今度は、しばらく黙っていた。
『・・・保険かな。』
何の、誰に対するやつなのか。
それは聞かなかった。多分これも答えてもらえないだろう。
『他に質問は?』
『最後にひとつだけ。』
『どうぞ。』
『千百合は元気ですか。』
無傷ですか、とは聞かない。
無傷であっても元気でないなら、幸村は鳴海を許さない。殴らなければ、蹴らなければそれで良いなんてことはないと、幸村もビードロズも随分前から知っていた。
『・・・元気かどうかはちょっと私じゃわからないから、聞くね。黒崎さん、どう?元気?・・・元気だって。』
『そうですか。』
『おしまい?』
『はい。もう聞きたいことは聞きました。』
『そう。じゃあ、話を戻すね。一条さんを助ける役を選んでね。』
『俺が選ぶんですよね。』
『うん。まあ別に、どうしても幸村君の指名じゃなきゃいけない!ってことはないんだけど。人選によって不利度合いが変わっちゃうから、自分で決められた方が良いかなって。』
『なるほど。』
さて。
どうするか。