Solicitation:1st game 3 - 7/7


「よし、次。仁王。」

(来たか・・・)

先ず、兄弟など居ないと言う嘘は柳と棗が居る時点で通らない。その位は調べられているだろう。
つまり、なるべくつまらない事を言って早く流すしかない。

「そもそもお前は兄弟居んの?」
「姉と弟が居るな。」
「へえ、真ん中なんだ。」
「多分な。」
「「多分?」」
「なんとなく女子の姿で、俺より年上の恰好しとる事が多いから、姉。男子の姿で俺よりちっこい姿しとる事が多いから、弟。と、暫定的に認識しとるが、本当にそうなのかは今一つ分からん。」
「どういう事だよ・・・」
「そういう事じゃ。俺の家族は、家の中でも騙し合いを欠かさんからの。」

嘘吐け・・・と一概には言えない。
だって仁王家だもの。

「お互い様じゃき貶す気はないが、強いて文句を言うなら四六時中そんな塩梅じゃきに、生活はし辛いナリ。」
「当たり前だろい・・・」
「良く面倒にならないわね。」
「まあ先に音を上げた方が負けじゃからな。」

何と戦っているのか。

「俺の話はこんな所で、「姉ちゃんと弟、どっちが仲良い?」

平常心、平常心。
そう唱えつつ丸井を見やると、仁王の視線を受けて口元がにやりと笑った。

流石に感づかれたか。
あまりこの話題に触れて欲しくないのだという事を。

「・・・丸井は弟に向かってどっちが仲良いとか考えるんか?」
「俺の所2人共弟だからな。年下だし、男だし。」
「そうよ、教えてよ。弟って、姉は天敵って聞いた事あるけどその辺どうなのよ。」
「じゃき、姉かどうかも判然とせん言うとるじゃろ。」

(来たぜ、此処が急所だろい!)
(あんたが秘密主義だってのは想像つくわよ、ぜーったい根掘り葉掘り聞き出してやるんだから。)

(やっぱり攻めて来たか、落ち着け。防戦に徹したらデッドロックに嵌るぜよ。こういう時こそ攻撃に目を向けて・・・)

「おおー!やなぎー凄いー!めっちゃ書くの早いねー!」
「柳、それ・・・何メモしてるんだ?」
「仁王は分からない事が多くてな。黒崎と丸井の誘導は、データ採取の上で非常に助かる。今の内に書けるだけ書いてしまいたいんだ。」

「何やら、高度な舌戦になっていますね。」
「うん、面白いね。仁王と1対1だと、千百合と丸井じゃ恐らく言い包められてしまうけど、2対1の今はなかなか善戦してるみたいだ。」
「しかし、何故ああも仁王は話をしたがらないのだ?兄弟の事位話しても良いではないか。」
「まあまあ、家族の事ですし・・・知られたくない自分の姿に繋がりやすい話題ですから。」

「・・・・・」

そうじゃないかな、とは思っていたし、多分本人に聞いたらそうだと肯定すると思うし、
こうして一緒に過ごして居るとますます確信が持てる事。

仁王が徹底した秘密主義者である事を柳生は体感しつつあった。

多分本来、家族云々の話どころか今何考えているのかという事すら知られたくないのだろう。
欲しいものがあっても、それを欲しいと思っている事をそもそも感づかれたくないと思うタイプだ。

(そこがこの期に及んでも解せないポイントですね)

何故こんな事してまで自分に拘るのだろう。
テニス経験者でも無ければ、無二の親友だとかそういうわけでも無いのに。

絶対もっと相応しい人が居る。
もっとテニスに詳しい人とか、ダブルスを誰かと組みたがっている人が居るとどんなに進めても、仁王は絶対首を縦に振らない。嫌だ、柳生が良いの1点張りで、頑としてそこから動こうとしないのだ。

(・・・ふふっ)

考え込む柳生の横顔に、幸村はそっと微笑んだ。

「幸村?」
「いや、なんでもないよ。それより・・・あっちは未だ終わらないようだね。」

仁王を突く千百合と丸井のタッグと、反撃しようとする仁王の応酬はまだ続いていた。
だが、流石に普段そんなややこしい事考えて話していない分、やはり仁王の方に軍配が上がる。
躱して躱して躱しまくる仁王の話術に、丸井がとうとう白旗を上げた。

「だから!あー・・・悪い黒崎、俺もう限界。此奴の相手疲れた。」
「マジ?」
「さあどうする。1対1じゃ俺に口で勝つのは無理だと分かっとるじゃろ。」
「くそ。」

もう完全に勝負の体が露見しているが、そんな事言ってられない。
結局大した情報を得られず、恥もかかせられず引っ込むなんて、そんなの嫌だ。絶対嫌。

(考えろ、考えろ、何か手は無いの?)

「いい加減諦めてそっちの話をしたらどうじゃ?」
「煩いわね、こっちの話なんて・・・ん?」

こっちの話。
というのはつまり、棗の話である。

(・・・そうだ、この手がある!)

「そうね、そうする。」
「・・・・ほう?」
「じゃ、改めまして。そうと認識したくはないけど私の兄である棗は、とんでもないクズよ。例えばそう。居眠りしてる妹の寝顔を撮ったりそれに・・・良く屋上に居るサボり常習犯の寝顔を撮ったりね。」
「・・・!」

バッ!と棗を振り向く仁王。
同じかそれ以上の速度で、サッ!と明後日を向く棗。

「・・・どうやって撮ったんじゃ、自分で言うのもなんじゃが俺は人が近くに居ると目を覚ますぜよ。」
「いや・・・その・・・新しく買った望遠レンズの精度を試したくて、近くのビルからつい・・・っていうか妹!お前はなんで知ってるんだよ!」
「言うわけないでしょ。」

かかったな、アホが!と言いたくなるのを千百合は堪えた。
仁王の事は分からなくても、棗の事は誰より知っている。
棗が仁王とどういう風に友達付き合いしてるかなんて、知らなくたって簡単に想像がつく。

有体に言えばカマをかけたのだが、綺麗に引っかかってくれた。

「あー!だからあんなに綺麗に撮れてたんだー!」
「あ、馬鹿・・・!」
「・・・綺麗に撮れてた?五十嵐も見たんか?」
「うん!この間良いもの見せてやるーって言って、見せて貰ったよ!紀伊梨ちゃんのお気に入りはねー、寝てる写真じゃないけど、おっきな輪っかのシャボン玉吹いてる写真!」
「なっちん、こっち見んしゃい。」
「・・・ごめん。」
「良いぞ紀伊梨、ナイスアシスト。」
「うん?何か良く分かんないけど紀伊梨ちゃん褒められた?やったー!」

何にも気にしないで、ただ褒められた喜びに浸る紀伊梨は大物なのだろう。

「まだあるわよ。なんと、この馬鹿は、あんたに告白して振られた女子のフォローまでしてる。」
「ちょっ・・・!」
「・・・ほお。」

(本当にやってたんだ。)

自分で言っておいてなんだが、まさかそんな事までしているとは。

「違うって!どっちかっていうとお前のフォローだって!」
「要らん。」
「本当に要らないか!?お前告白断る時ばっかり馬鹿丁寧な所為で、振られたら逆に熱を上げる様な女の子が沢山居るんだぞ!それを諦める方向に誘導してやってるのに、それも要らないってか!・・・って、あ。」
「・・・・・・」
「・・・・あの、ごめんね?」
「俺はお前さんに感謝すればええんか、それとも恨めばええんか、イマイチようわからんくなってきたぜよ。」
「もっとあるわ、例えば、」
「止めてえええええ!もう止めてええええ!悪かったからあああ!俺が悪かったからあああ!」

「黒崎も凄いな・・・双子の兄の事と言っても、あそこまで色々知ってるなんて、」
「いや、知ってるわけじゃないと思うよ。」
「?どういう事だ?」
「千百合は、棗のやりそうな事を言ってるだけじゃないかな。それが当たってるから、ボロが出るんだよ。」

「ボロというか、埃というか余罪というか。言い方に迷うな。」
「あいつめ・・・フォローは良い事だが、本人の許可なく写真の撮影などは許せん!」
「まあ、友人でなければ犯罪だ。」
「友人であっても犯罪だろう!黒崎千百合は、妹で身内という事を鑑みればかなり瀬戸際の所で許されるやもしれんが、」
「相手が五十嵐や春日だった場合は完全に越えてはいけないラインを越えている。言い訳も出来ないな。」

「お2人とも、大丈夫ですか?」
「うにゅ?何が?」
「お前ら2人共脇が甘いからって話。」
「丸井君、お帰りなさい。」
「おう、ただいま。」
「脇が甘い?ってどーいう意味?美味しいの?」
「油断してはいませんか、という事ですよ。春日さんは大人しい方ですし、五十嵐さんはそもそも撮られたりしていても気づかなさそうですしね。幾ら友人とは言え、限度はありますよ。」
「そーお?」
「はあ・・・」
「や、柳生君。紀伊梨ちゃんはそのう、カメラに人より抵抗が無いんです。」

そう。
アイドルを目指す紀伊梨は、目立つの大好き人前大好きである。
ビデオに撮られるとかカメラに撮られるとかも大好きで、何の気負いなく笑えるしポーズを取れる。
撮られて恥ずかしい、という概念が薄いのである。

「どーして紫希ぴょんは写真嫌いなのー?楽しいのにー!こうパシャパシャってして、ニッコリ笑ってキラキラーって!」
「レンズが苦手で・・・緊張してしまって、」
「それなら尚更だよ!いっぱい撮られたら、きっとその内慣れるよ♪紀伊梨ちゃんと一緒に練習だー!」
「れ、練習・・・?」
「うん!先ずはこの前買って貰った自撮棒で、たっくさん写ろうねっ!あ!忘れてた、ゲーセンに新しいプリが入ったんだよ!それも撮ろう撮ろう!後ね、後ね、」
「お、お手柔らかにお願いしますね・・・」

「・・・確かに言われてみれば、五十嵐さんはレンズを向けられても特別何かを感じたりはしなさそうですね。」
「一応、アイドル志望だからな。」
「そうなのですか?」
「おう。ま、そっちの才能には溢れすぎてるくらいだと思うしなれるんじゃねえ?」
「ほう・・・」

単に音楽が好きで、その才を持っている。
それだけの話かと思ったらどうやら違うらしい。

(・・・夢を持っているんですね、五十嵐さんは)

そうだ、ここに居る人はきっと皆。
夢とか、目標とか、どこか目指したい所があるのかもしれない。
だからこんなに一生懸命で、眩しいのかも。

「丸井君は?」
「ん?」
「何か夢など、お持ちですか?」
「将来の?」
「はい。」
「えー、別に特には。あ!」

丸井は何時もの自信たっぷりの笑顔になって、柳生に顔を向けた。

「立海男子テニス部レギュラー♪」

夢とはちょっと違うけど。
自分の目標。大事な、大事な目標。

「・・・そうですか。」
「おう!今年は落ちたけど、諦めねえぜ。」

諦めない。
決して諦めない。

レギュラー決めを経て尚折れない心は、立海テニス部部員の証である。