Solicitation:3rd game 3 - 2/6


無人になった倉庫。

その中のカーペットが徐に浮き上がった。いや、下に有った扉に押し上げられたのだ。

「・・・ふう。助かった。」
「もう居ませんか・・・?」
「おう。行ったみたいだな。」

一応罠と言う可能性も考えて慎重に顔を覗かせたが、どうやら杞憂だった。
どうにもならない袋小路から、漸く抜け出せたわけだ。

「黒崎が叫んだ時はつられて吃驚したぜ。」
「あはは・・・千百合ちゃん、虫がお嫌いで。」

そう。
2人はずっと床下に居たので、見てはいないが聞いてはいた。
だから幸村へのお礼が云々の話は、何が起こっているのか殆ど分からなかったが、千百合が叫んだり、甲冑を投げたりしていたくだりはよく分かった。

「虫ねえ。つっても聞こえてきた感じじゃ、カナブンだろい?それも駄目?」
「虫は全部苦手です、千百合ちゃんは。女の子は苦手な方は多いと思いますけれど・・・普通以上に苦手です。」
「ふうん。彼奴にも怖いもんがあったんだな。」

基本怖いもの無しで、いつも大凡クールな姿勢を崩さない千百合だから、あんな風に取り乱して嫌悪するようなものがあるとは知らなかった。

まあ知ったとして、からかったりする気は無い。
あの神の子様がお頭(かんむり)になる。

「因みにお前は?」
「え?」
「お前の怖いもんは?」
「え・・・・」

ごくごくナチュラルに紫希にも怖いものがある前提で尋ねる丸井。

いや、別に無いわけではない。
誰だって苦手な物はあるものだし、紫希だって普通にある。

あるけど。
あるけど今教えるわけにはいかない。

「・・・ひ、秘密、です・・・」
「えー?別に分かったからって馬鹿にしたりとかしないぜ?」
「あ、そ、それを心配してるんじゃないんです!ただ、その・・・あ、後で言いますから!」
「?ふーん?」

てっきり人前とか言うと思っていたが、違うらしい。

何か引っかかる返事だが、今食い下がっている時間が無いのも確かだ。
此処から出て、奥へ行かなくては。

「・・・・・」
「・・・・・」

そろ、と扉を開ける2人。
誰も居ない。

「廊下の奥だな?」
「・・・に、有る事が多いです。各階の地図から言っても、廊下に設置されているタイプかと。」

廊下の奥。
奥と言うのが又悩ましい。
其処までの距離、無事に走破できるかどうか。

「ま、考えてたってどうにもならねえな。行くしかないだろい。」
「はい・・・」

腹を括ると、2人は静かに、且つ出来る限り素早く部屋を飛び出した。

誰も居ない廊下を駆ける。
でも心は急いている。

目的のものはどれだ。
急がないと見つかってしまう。

「・・・どこだ?見当たらねえ。」
「・・・あ!あった、有りました。」

紫希が指差す天井。
其処には、四角い蓋のようなものがある。

仁王が2人に見つけろと指示したもの。
それは、屋上へ繋がるメンテナンス用の点検口であった。

「マジ?あれ?」
「はい、多分あれです。」
「どうやって上るんだよ?」
「ええと・・・これです、このレバーが多分。」

梯子が今無い、という事は手動で出すタイプ。
紫希は手早く壁に備え付けられていたレバーを引き出すと、くるくると回し始めた。

「おお!蓋開いて来てるぜ。」
「多分、梯子もその内・・・あ、降りてきました。」
「へえー・・・」

紫希の言う通り、レバーが回るにつれて塞がっていた天井の蓋は開き、梯子が段々姿を現してきた。

「お前良く知ってるな。俺、言われなきゃこんなの分かんねえだろい。」
「あ、私、祖父が大工で。こういう事は、人より少しだけ詳しいです。
「へえ!そりゃ助かー・・・」


「見付けたぞ。」


柳の静かな声が、廊下に落ちた。

「げ!」
「う・・・!」

見つかった。

「マジかよ・・・」
「ま、待って下さい。確かあっちにも、もう一箇所・・・」


「ふふっ。残念でした。」


(うっそだろい・・・!)

柳と別方向から表れ、此方へ悠然と歩いてくる幸村。

万事休す。
これは駄目だ。

もしも。

非常に確率は低いけど、と前置きされたが、棗がゲーム前に言っていた事。
もしも、泥棒側が全員捕まってしまったら、それはもうゲームセット。
その時点で敗北決定だ。

(どうする・・・俺一人でも此処から逃げるのは厳しいし、春日なんか尚更、)

流石に1人になってしまったら本当にほぼ何も出来ないだろう。
まだ見つかってないとかならまだしも、ここまで追い詰められていては、もう。

「・・・下りた!丸井君、登れます!」
「よっしゃ!」

丸井は直ぐに、下りきった梯子を上り始めた。
そして、その後ろから紫希が後を追って上り始める。

「甘いね。」
「逃がすと思っているのか?」

駆けだしてくる柳と幸村。
だが、見通しの良い廊下だから、視認しても実際に近づくには少し距離がある。
大丈夫。追いつかれる前に上りきれれば。

「・・・おし!」

丸井は上りきった。

出口の先は屋上だ。
吹く風が涼しい。

「よっ・・と!春日、来い!」

そう言って手を伸ばす丸井だが。

「春日、そこから早く降りた方が良い。君の為だよ。」
「・・・・」
「分かってるだろう?やめた方が良いって。」
「どういう事だ?幸村。」

「春日は高所恐怖癖なんだ。高いところが怖いんだよ。」

「なんだと・・・」
「はああ!?」

もう登り切っている丸井は目を剥いた。

「今は勢いで登ってしまおうとしてるみたいだけれど、無理はしないに限るよ春日。」
「・・・・・・」
「こんな事言いたくはないけれど、苦手な所に無理して行って、自分に行動出来ると本当に思っているのかい?」
「・・・う、」

幸村の言う事はキツくはあるが正論である。

屋上でご飯を食べる時、紫希は決してフェンスにもたれようとはしない。
ヘリコプターに乗った時も、遠く遠くばかり見て真下は絶対に見なかった。

体育館の2階に行くのに梯子を登るのだって怖いのに、こんな所の梯子登って、おまけにフェンスも無い屋上へ行くなんて、紫希には出来ない。
よしんば行ったとして、それ以上何が出来ようか。

幸村はそう思う。
そしてそれ以上に紫希もそう思う。

(・・・でも、)

「・・・おい!春日!」

頭の上からかけられる声。

ああ、そう。
丸井は。
皆は。

自分の友達は皆皆、いつも。


「捕まれ!登りきるんだ!」


例え何も出来なくても。
それでも目指して良い。
挑戦して良いんだよと言ってくれる。

「・・・はい!」