海賊は追い返せたが、離宮は結果的に半焼してしまった。
よって、別荘の見学は延期になり。
エルは城へ移動して、紀伊梨と切原は、引き続き城でずっと寝泊まりしている。
羽を伸ばしに外出できるのは、当分先だ。
「えええ!?じゃあ紀伊梨さん、エルのこと人間だと思ってたんすか!?」
「だーーって、誰も教えてくんなかったんだもーーん!赤也くんだって、言ってなかったよ!」
「だって、普通言うっしょ!なんで皆黙ってたんだよ、もー・・・」
わざとである。
わざと伏せておいたのだ。
ということには、2人とも気づかない。
もしバレていたら、それはそれで良かった。
バレる程度にはお互いに話ができている、ということだから。
もしバレなかったら、要は夫婦の会話時間が取れてないという証拠だから、どっちにしろよし。というのが、このプランの上手い所だった。
切原がエルを優先したのも、それが理由である。馬というのは繊細な生き物で、飼い主が居ない状態で非常事態になると、パニックになる。
それなら自分がエルを保護しに行けば、その後は帰りの足ができるし、騎乗での戦闘はお手のものだしで、総合的にそっちの方が話が早い。
と切原は判断したのだった。
「あ!もしかして、どっちが好きとか聞いてきたのって、それすか?」
「だってー・・・」
「変だと思ったんすよねえ。馬と人間と比べて、どっちが好きもへったくれもねーだろって話じゃないっすか・・・というか。」
「?」
「・・・んじゃあ、もしかして紀伊梨さん、妬いてたり?」
「・・・・だってー!」
「へへへへへっ!」
嬉しい。
切原は嬉しかった。
あの紀伊梨が嫉妬してたなんて、すごい進歩である。
まあ、馬だから妬く必要なんてないんだけど。
・・・と思っているのは、切原だけである。
紀伊梨はそんなこと思っていない。
紀伊梨は、無言で切原の腰に抱きついた。
「うおっと!」
「・・・・赤也くん。」
「・・・何すか?」
「他に居ない?」
「何が?」
「呼びたい女の子のお友達!」
「え、別に居ないっすけど・・・え、まだ心配してるんすか?」
「だってだってだってー!嫌なんだもん!」
切原はにやにやしてしまってしょうがない。
可愛い。
嫁が可愛い。
「大丈夫っすよ!俺そもそも、好きな人何人も作れるタイプじゃないっすから!」
「そーなの?」
「そう!」
馬鹿だからな。
とは言いたくないから言わないが。
「んー・・・・」
「まあだ疑うんすか?」
「疑ってないけどー!でも、まだなんかちょっと、寂しいんだもん・・・」
「・・・・・・じゃあ、もっと近く来ます?」
「え?でも今はぎゅうぎゅうしてるからさー、これより近くはーーーー」
無理じゃない。と言おうとした瞬間、紀伊梨は寝台に押し倒されていた。
「こういうことっすよ。」
「・・・どゆこと?」
「え。」
「何するの?こっからどーすんの?」
「どう!?え・・・えーと!えー・・・」
そう改めて聞かれると、切原もあんまりはっきりとは答えられない。
結局、その辺の知識も乏しければ、学習もあんまりできてないのがこの夫婦なのだ。
ただ。
一方でこの夫婦、感覚はとても鋭敏な方で。
「えーと・・・あ!」
「なーに?」
「思い出したっす。とりあえず、まずは・・・」
「まずはー?」
「・・・キス?」
キス。
は、したことある。
挙式の時にした。
だから、やり方は知ってるし、経験もある。
のだが。
「・・・・あ、あれ?あれ、あれ、」
「ちょ、ちょっと何すか・・・ちょっと、じっとしてくださいよお!」
「するからー!するから、10数えるまで待って!」
「なんで!」
「だってー!だってなんか・・・前より恥ずかしいんだもん・・・」
自分の奥さんは、こんなに可愛かっただろうか。
いや、可愛いと思ってたけど。
でも、明らかに今、想像を超えた可愛さ。
「・・・待たねえ。」
「待ってよー!」
「こっちはもう何ヶ月も待ってるんすよ!これ以上1秒も待ちませんからね!」
「そんーーー」
夫婦になって初めての深いキスをした時。
この後のことは知らないけど、どうでも良いやと思った。
お互いに思って、そのままシーツの海に溺れていくことにしたのだった。