何か半分当たり前のように、着替え終わってプールに来るのは男子勢の方が早く。
どうせずっと固まってるわけじゃないし、解散しながら待ってても良いのだが。
「さあバラケる前にwじゃんけんタイムよw」
「やはりこうなりますか。」
「まあ予想はしていたが。」
じゃんけんしてどうするのか。
紀伊梨係を決めておくのである。
「別に祭りの時はわざわざ決めんかったじゃろ。成り行き任せじゃいかんのか。」
「残念ですけどwプールとか海でそれは通らないんですねえw」
「そんな違う?」
「割と違うよ。海じゃない分マシだけど、兎に角水着の五十嵐に寄ってくる人っていうのは後を絶たないから。」
「大変だな・・・」
水着の方が動きの制限が少なくて紀伊梨がより紀伊梨らしい振る舞いが出来るからか。
単純に露出の少なさに比例して寄ってくる男の習性か、どんなに長くてもせいぜい3時間しか居ない祭りと違って一日遊ぶことが多いからなのか。
何が原因なのかは未だに判然としないが、取り敢えず海とかプールでは普段よりナンパに注意せよというのは、経験則でもう分かっている。
「それに、海やプールじゃ春日に任せることは出来ないんだ。」
「む。それは押しが弱いからか?」
「それもあるけれど、泳げないからね。相手が撒く気になったら簡単に撒けてしまうんだ。高いところも苦手だし。」
「「「「「「ああ・・・・」」」」」」
そびえ立つウォータースライダーを見上げる一同。
下手人にあそこに逃げ込まれたら、紫希はもう終い。探そうにも恐怖でのろのろとしか動けないし、見つけてもプールに逃げ込まれるとアウト。
「まあそういうわけでねwでも交代制にしましょうねw同じ人にずっとお守りは酷だからw」
「ジャッカルに任せといたら良いんじゃね?」
「おい、俺かよ!いやまあ良いけど・・・こういう時はハーフの顔は武器になるし。」
「せんで良いよwお前は本当に損な良い奴だなw」
「まあ兎に角始めよう。幸村、お前は良い。」
「そう?1時間かそこらなら大丈夫だけど。」
「こんなに人数が居ますから、1人2人減っても全く支障はありませんよ。どうぞ、お気遣いなく。」
「ふふっ!じゃあ、お言葉に甘えて。」
「ならば俺も抜けて良いだろうか?」
「「「「「「「「え?」」」」」」」
ぎら、と光る真田の目に、何かを察した者が居たり居なかったり。
それからほどなくして、持ち込みの浮き輪を二個持って女子3人もプールへと出てきた。
「やほー!よっしゃ、遊ぶぞー!」
「あ、紀伊梨ちゃん走ったら危ないですよ!」
「ああうるせ・・・」
紀伊梨の声も煩いけれど、もうプールのエリアに出た瞬間からこの視線が煩い。
自分への物でなくても鬱陶しい。ええい、あっち行け。散れ散れ。
「3人とも。」
「あー!ゆっきー!やーぎゅ!真田っち・・・あり?千百合っち?」
「行くな。」
「え?」
「行かんで良い。」
声をかけてきた、幸村、柳生、それに真田の3人。
何も考えずそっちへ行こうとする紀伊梨の腕を千百合が掴んで制止する。
「おい、何をーーー」
「寄るな。こっち来んな。仲間と思われたくないわ。」
「千百合ちゃん・・・」
「紫希も行くなって。もう私らだけで遊ぼ、お前ら来んな。っていうか、真田が来んな。」
「どういう意味だ!」
「周り見て分かれよ!」
幸村と柳生は顔を見合わせて苦笑した。
「お前はーーー」
「弦一郎。悪いけれど、この件に関しては千百合の方に分があるよ。」
「何だと!?幸村お前まで!」
「真田君。別に何も、真田君が悪いと言ってるのではありませんが、善悪を抜きにして目立っているのは確かですから。」
「む・・・」
そう。
真田という男に取って、私服の水着というのはつまりふんどしの事なのである。
真田自身が威圧感ある方なので指差してプークスクスされる事こそないが、それでも圧倒的に目立っているしあれ何・・・な目を集めているのは間違いない。
「兎に角あっち行って。もしくは売店戻って普通のに着替えてから来て。」
「貴様、人を犯罪者か何かのように・・・!」
「見ようによっちゃ片足突っ込んでるから言ってるのよ。」
「言わせておけば!」
「まあまあ、お二人ともその辺りで。」
「千百合、心配しなくてもバラバラになるから。俺と行こう。」
「は?」
「五十嵐さんは、私とです。時間が来るまで。」
「時間?」
「ええ、交代制で男子の誰かが五十嵐さんに付きますよ。ナンパ防止の為に。」
「へー!ありがとー!あんまりナンパとか会ったことないけど!」
(((それは気のせい。)))
「え?じゃあ待って、真田はーーー」
「俺は春日とだ。」
「え?」
「春日。あまり聞いたことがなかったが、お前は泳げんらしいな。」
「う・・・!」
ぎゅ、と浮き輪を腕で抱きしめる紫希。
そう、紫希は泳げない。
足が着こうと着かなかろうと、こういう水場で遊ぶ時は原則浮き輪が手放せない。
「ねえ、まさか・・・」
「俺が指導してやる!一緒に来い!」
「馬鹿か!」
「おー!やったじゃん紫希ぴょん、泳げるようになるかもよー!」
「お前も辞めろ!」
「おい、何故止める!」
「止めるに決まってるわ!何しに来てんのよ!」
自分達はここにバチャバチャ気楽に遊ぶために来てるんだぞ。
それなのに泳ぐ練習でしかも指導員真田とか、もうガチじゃない。ガチの練習になる奴じゃない。
「あんたらも止めてよ!」
「そうは言いましても。」
「一応、春日の意見を聞こうと思って。春日、どうだい?」
「え、ええと・・・」
「嫌ならそう言って良いよ。千百合の言う通り、今日は遊ぶつもりだったんだし。」
「それから、やるにしても時間制限は付けましょう。一日練習では春日さんはバテてしまいますし、練習で体力を使い果たして、お一人だけ一切遊べなかったという事になっても気の毒ですから。練習の成果があってもなくても、区切るということで。」
「しかしそれではーーー」
「弦一郎。こう言ったらなんだけど今日は指導に向いてるとは言い難い場なんだから、水着とか混み具合とか。ちゃんと教えたいのならわざわざ今日を選ぶのは辞めて、学校のプールで競泳用水着でやるべきだよ。」
「む。確かにそれもそうだが。」
「紫希ぴょんどーお?やる?やらない?やらないんだったら紀伊梨ちゃん達とスライダー行こーよ!」
「辞めといた方が良いって。しんどいって、絶対。」
確かにしんどくなるのはもう目に見えている。
まして体力のない自分のこと、ある程度で切り上げて貰ったとしてもその後動けるかどうか。
「・・・じゃあ。」
「「じゃあ?」」
「真田君、よろしくお願いします・・・」
千百合は親友のこういう所が本気で理解できない。