Wet lips 1 - 3/8


「はあ・・・」

流れるプールで浮き輪に体重を預けながら、千百合はぷかぷか流されていた。
「よい、しょ。」
「ん。お疲れ。」

紫希の分の浮き輪を荷物スペースに置いてきた幸村は、戻ってくると千百合の浮き輪に外から捕まるようにして、肘から上を乗り出した。

「どうしたの?何か考えてた?」
「何考えてんのかなって考えてた。」
「?」
「あっち。」
「・・・ああ。あははっ。」

あっち、と言って千百合が顔で示した方向は、人波に紛れて見えないけれど25mプールがある方向。
知らないけど、多分紫希は今頃ふんどしの真田の指導を受けて、ビート板とかそういうの使って練習してるんだろう。

「まあ、春日ならやります、って言うと思ったけどね。」
「精市、止めてよ。」
「どうして?本人達がそれで良いのなら、良いじゃないか。」
「そうかもしれないけど・・・っていうか、精市も良いのあれで。あれが友達で。」
「ふふふっ、別に何も悪いことはしちゃいないよ。ちょっと目立つだけで。」
「ちょっとか?」

確かに犯罪行為でも迷惑行為でもないでしょ、と言われるとそりゃあそうなのだが。
テニス部はあれでよく平然としてられるもんだと思うけど、男子ってそんなもんか。いや、テニス部である以上ある程度慣れないといけないのかもしれない。自分なら絶対ごめんだけど。

「まあ良いや。私のんびりしてよ。」
「スライダーはいかない?」
「ああ、後で行く。」
「千百合は、どこか行きたいところはある?」
「波のプールとか。取り敢えずゆっくりしたい、何か最近怠いし。」
「怠い?夏バテかな?」
「いや、飯食べてるけど。なんていうの、こう変な所が凝ってる感じっていうか、寝てるのに何となく怠いっていうか・・・」

まあ夏バテといえば夏バテなのかもしれないなあ、とか思いつつぼうっとプールの天井を見上げると、照明がなんだかとても眩しい。
目も疲れてるんだろうか。いやこれは単に眩しいだけかな。

「じゃあ千百合、後でだけど。」
「?」
「25mプールに行こうよ。それで、一緒に泳ごう。」
「え、何で。」
「そういう風に怠い時は、大抵疲労っていうより運動不足だよ。千百合、体育も最近真面目にやってないだろう?」
「・・・・・・」
「あはっ、やっぱり。春日が最近はバレーやってるって言ってたから、そんなことじゃないかと思ったよ。」

断わっておくが、紫希は別に千百合がサボってると言ったわけではない。
ただ、今バレー始めてると言っただけ。

しかしバレーというのはバレー部員でもない限り、先ずは基本のパスから練習せねばならないのであって、でも千百合は大体要領が良いので、こういうのはすぐ習得してしまう。
そしてある程度出来るようになったらそれ以上磨こうとは思わない。遠慮なく休む。
昔から千百合はそういう体育の受け方ばっかりしている。

「それに、最近は練習を多めにしてるみたいだし。」
「あーまあ、それも確かにね。紀伊梨が補修とか追試とかで時間取られるし、私ら紀伊梨居ないと誰も遊ぼうって言い出さないで練習しちゃうし。」
「だろう?だからどうかなと思って。折角泳げるんだし、偶にはしっかり全身運動するのも良いんじゃないかな。」
「・・・そうかもね。」

確かに小学校の頃は感じなかった倦怠感。
小学生に追試や補修なんて殆どないし、フェスが控えてるからと言って日々こんなに詰めて練習するのも思えば初めてかも。

「・・・1個お願いしていい?」
「どうぞ?」
「帰りの電車で寝たら起こしてね。」
「お安い御用だよ。」

幸村は優しく微笑んで言った。