昼過ぎになろうかと言うときだった。
ビードロズとテニス部合同のグループラインに、千百合からメッセージが入った。
たった一言だけ。
『大丈夫だから、心配しないで。』
全員が何のことだかよくわかっていなかった。
だから皆返信を打った。
急にどうした。
誤爆か。
何かあったのか。
千百合からの返事はなかった。
そのわずか数分後であった。
スピーカーから放送が入ったのは。
『・・・あー、あー。テストテスト。ただいま、マイクのテスト中。』
「え?」
紫希は急に聞こえた声に顔を上げたが、丸井に仁王、林は流石に一瞬で気づいた。
「ねえ、今のって・・・」
「そうじゃな。」
「え?え?な、何がですか・・・」
「今の、部長の声なんだよ。」
「部長・・・テニス部の部長さんですか?」
「そ、佐川部長。」
『・・・よし、感度良好。ほら。』
『・・・ありがとうございます。』
「あ!」
「今の声は・・・・」
「あ、やっぱそーだよねー!誰か知らないけど、この声マネジさんでしょ?紀伊梨ちゃん、聞いたことあるから知ってるもんね!あり?え、てことはー・・・」
「ああ。部長と鳴海先輩が放送しているということだ。」
『・・・1年D組、幸村精市君。』
「・・・・・!」
幸村は顔を上げて眼を見開いた。
ここは中庭。
SASUKEがすぐそこにあるおかげで賑わっていたおおぜいの人達は、今皆幸村を見ている。
幸村は視線を走らせる。
声の主がどこに居るのかわからないけれど、探さずには居られないのだ。
幸村はもちろん、声の主が2年生マネージャーの鳴海千佳子であることを知っている。
でも、まさか自分の名前が出るなんて。
(これは一体・・・)
『・・・幸村君。あなたの彼女・・・黒崎千百合さんはこっちで預かってるよ。無傷で返して欲しければ、「白の塔」まで自分の力で奪い返しに来てね。』
「!」
今度こそ幸村は息を吞んだ。
前後のことはよくわからないが、もうこの際わからなくても良い。
わかっていることは、千百合が囚われていること。
解放するには、白の塔とやらに行かねばならないということ。
それで十分だった。
しかし。
「白の塔・・・」
白の塔、とやらが幸村にはわからない。
今聞こえてきた放送からは、「やること」と「行く場所」と「引き起こした人」がクリアになった。
「いつまでに」という時間制限はない。だから、1分1秒遅れたからロスになる、ということは無いはず。それでも気持ちは焦るが、猶予はまだある。
どこなのか考えていると、肩を誰かから叩かれた。
「はい?」
「幸村君。」
「・・・一条先輩。」
一条直樹。
千百合のベースの師。
幸村もはじめましてではない。
その彼が今、皆の見てる前で言った。
「教えよう。それが僕の役だ。」
「役?」
「まあ別に僕じゃなくても良いと言えば良いんだが、生憎うちのクラスにはテニス部が鳴海さんしか居なくてね。他に君と繋がりがある人間と言うと、僕くらいしか居ないんだよ。」
今の発言からわかることはわんさかあったが、それも今はどうでも良い。
「・・・では、お言葉に甘えて。一体どこにー--」
一条は、す・・・と彼方を指さした。
「あそこだ。」
そう、そこは。
前人未踏の、2ーD組が誇るSASUKE最難関ステージ。
Sコースのゴールだった。