マネージャーって結構帰るの遅いんですね。
2人とも思わずそう考えてしまう程度には、マネージャー達の帰る時間は遅かった。
当然と言えば当然かもしれない。
マネージャーの仕事というのは選手のサポートとか雑務なのであって、練習が終わってもやる事は尽きない。
寧ろ終わってからもやる事がある。
「何時になったら出てくるんだ?」
「さっさと言っときゃ良かったかなー。話有るから一緒に帰るかってよ。」
「・・・お前凄いな。」
「何が?」
女子だろうと誰が相手だろうと、絡むのに物怖じしない男、向日。
一日100通のメールを余裕でやり取りしてみせるコミュ力は伊達ではない。
「でもま、さっきからちらちら帰ってるやつ見かけるし、そろそろ出てきても・・・あ!」
来た。
そして一人じゃない。
隣には網代が居る。
(んー、友達居るんだし楽しそうだし、やっぱ苛めの線は捨てても良いと思うんだけどなー。)
ただ此処まで来てやっぱり止めましょうもあるまい。
宍戸は納得しないだろうし。
「なあ、お前!」
「えっ?」
「あら、向日君に宍戸君じゃない。」
にっこり笑って手を振る網代。
の、隣で可憐はキョトンとした顔をして此方を伺っている。
「悪い、ちょっと右の方の奴に用事があってよ。」
「わ、私っ!?」
「そーそー。」
「あら。じゃあ私、居ない方が良い?」
「あ・・・んー、そうだな。」
もしも本当に苛めが云々の話になるのなら、網代が居ても良いと一概には言えない。
申し訳ないが外してもらえるならその方が良い。
「その、悪いな。今日だけだからよ。」
「ううん!それじゃあ、お先に失礼するわ。・・・あ、そうだ。序に2人とも。」
網代は可憐の肩を抱いて引き寄せた。
「この子は、桐生可憐ちゃん、っていう可愛い名前があるんだから。右の方、な~んて失礼な呼び方しちゃあ駄目よ?」
「うっ・・・わ、悪い。」
「はいはい!失礼しましたおじょーさん。」
「・・・ふふっ。気にしてないよ!」
その通りだと思うのであろう、真面目に謝る宍戸。
あくまで明るく返す向日。
何の用事かは知らないが、可憐は2人の事を良い人そうだと思った。
「も1つ序に、私の名前は網代茉奈花だから。」
「分かったって!左の方、とか呼んだりしねーよ。」
「よろしい!うふふ。じゃあ私、帰るわね。又明日、可憐ちゃん!」
「あ、うん!ばいばい、茉奈花ちゃん!」
手を振る網代の夕日に照らされる背中は、離れて校門を出て行って、間もなく見えなくなった。
「あの・・・」
「うん?」
「何か、悪かったな。邪魔しちまって。」
「ううん!良いよ!用事があったんでしょ?」
申し訳なさそうな宍戸に、可憐は明るく返す。
用事があったというか。
なんというか。
「それで、何のお話?」
「いや、大した事じゃねえんだけどさ。お前、忍足って知ってるだろ?彼奴どんな奴?」
「忍足君?」
「おい、がく・・」
お前、虐められてるんじゃないか。
向日は可憐から見えない角度で、そう切り出しかけた宍戸を軽く小突いた。
宍戸の美徳でもあるのだが、どうも此奴は何時いかなる時も直球勝負過ぎていけない。
テニスはともかく人間を、まして女子を相手にしている時にずっとこれでは論外だ。
一方の可憐はそんな事ちっとも知らず、笑顔をパッと華やがせた。
(お?)
「もしかして、2人とも忍足君とお友達になりたいの?」
「えっ。」
「ああ。ま、そんなとこ。でもほら、彼奴なんか良くわかんねーだろ?何考えてるか、とかよ!だから何か知らねーかなーって。」
これは半分は本当の事だった。
思考の分かりやすい人間の多い氷帝学園で、彼処まで性根の見えない忍足という存在に向日は興味を抱いていた。
「そうなんだ!」
「おう!で、本題なんだけど、結局どんな奴?」
「あのね、忍足君は
すーーーーっごく!良い人だよっ!」
喜色満面。
そうとしか言いようの無い顔に、向日と宍戸は苛めの線をこの時点で捨てざるを得なかった。
「そうなのか?」
「うんっ!」
「どの辺が?」
「あのね、私入学式の日に・・・」
目を輝かせて話す可憐。
忍足話はまだ始まったばかり。