Prudence - 4/5


(あ、せやった。)

忍足は学校から1番近いコンビニの前で足を止めた。

何か忘れている気がする・・・と思ったら、映画のチケットである。
新しい映画が見たくて、帰りにコンビニでチケットを買おうと往路で思い、復路についた時点で忘れるというのをここ2~3日ずっと続けていたが、漸く思い出した。

「いらっしゃいませー。」

いつでも明るい店内。
そして店員さんの声とカウンターフーズの匂い。

さて、チケット販売の機械はどこかと視線を店内に走らせると。

「・・・茉奈花ちゃん。」
「え?あ、侑士君だ。」

機械より先に網代が見つかった。

「立ち読みかいな。」
「うーん、買うんだけど、ね。ちょっと此処だけ、どうしてもすぐ見たくて。」

そう言って網代が指差す女子向け雑誌には、「必見!少ないアイテムで、賢い着回しコーデ!」の文字。

「賢い着回しなあ。」
「あら、重要よ?」
「お小遣い少ないん?」
「違います!全く、誰の為にお洒落に割く時間を捨ててると思ってるの?」
「・・・ああそういう事か。」

通う生徒の大半が富裕層である氷帝学園で、服の心配とは珍しいと思っていたが、合点がいった。
無いのは金で無く、それを買ったり着たりする時間の方である。

「そら堪忍な。」
「うむ、許してしんぜよう!・・・なんてね?」

そう言って悪戯っぽく笑う網代の笑顔は、いつかの時も思ったが本当に綺麗だと思う。

元々の顔立ちが整っている所為もあって、彼女が笑うと「花が咲いたよう」という表現が実にしっくりくる。

「侑士君は、何しに来たの?お買い物?」
「まあ買い物やな。チケット買いに来てん。」
「チケット?ライブか何か?」
「映画やな。」
「へええ!何か意外。」
「そんな風に見えへん?」
「うーん、どっちかっていうと本派なのかしらん?って思ってたかな。」
「ああ、それはよう言われるわ。」

実際、忍足は本も好きだ。
だから余計そう見えるのだろう。

「因みに、何を見るの?」
「『ヤマトナデシコさん北へ』」
「あー!知ってる、それ恋愛映画よね?」
「せやで。」

ちょっと、パッと聞きでは恋愛なのかなんなのかすらも分からないタイトルだが、これはれっきとしたラブロマンスである。
ラブロマンスと言ったらラブロマンスなのだ。

「ふうん、ますます意外。」
「恋愛映画が?」
「そ。なんか侑士君ってこう・・・なんて言うの?」
「恋愛とか、あんまり興味無いように見える?」
「興味無いって言うのとは違うかな?なんていうか、結構恋愛に臆病なタイプなんじゃないかなって。」

イメージだけどね?と言って上目遣いで忍足を伺う網代の瞳。
その眼差しに、忍足は胸の奥の方が僅かに、しかし確かに掴まれたような感覚がした。

「・・・せやから、怖いもんはわざわざ見いひんやろと思ってたいうわけなん?」
「そんなとこ、ね。俺は恋愛とか興味無いねん、とか言って逃げちゃう系男子かと思ってたけど、勘違いだったみたい。」
「・・・実は勘違いやない。」
「えっ?」
「って言うたらどないする?」

忍足は含みのある笑みを浮かべていた。

「・・・とかなんとか言っちゃって~。本当は本当に勘違いなんでしょ?」
「どうやろなあ。」
「もう、何その思わせぶりは!」
「思わせぶりなつもりはあらへんで?」

ムキになる網代に気を良くして、忍足は雑誌コーナーの隣にあったチケット販売の機械に近付いた。

タイトルを入力し、席の選択。

(あかんな、流石にええ席埋まってるわ。前よりは後ろのがええか・・・いやでも、此処まで後ろやと流石に・・・)

「・・・・・・」

考え込む忍足。
その後ろから、網代は雑誌を持ったままそっと近付いた。

忍足も網代が来たことには気づいていた。
ただ、ATMでもなんでも無いのだし、別に見られていたって構わないからあまり気にしていなかった。

(・・・うん、此処やな。此処にしとこ。)

忍足の人差し指がD列8番の席を押し、抑えましたよ、のアイコンが着いた。



その直後、右から伸びて来た人差し指が隣のD列9番を抑えた。

「茉奈・・・」
「嫌だった?」

そう言って忍足をなんの気負いも無く見つめる網代に、忍足は少し考えて、やがて溜息を吐いた。

「ずるいわ、茉奈花ちゃん。」
「あら、何の話かしら?」
「この流れで嫌や言える男なんかおらへんやん。」
「言ってくれて良いよ?本当に嫌なら、ね。」
「やからその辺がずるいんやって。」

網代は忍足が嫌がって無いことを分かっている。
多分、嫌がるどころか悪い気はしていない事も。

「でも、そもそも侑士君が悪いのよ?」
「なんで俺やねん。」
「悪いわよ。恋に臆病とか、勘違いとか勘違いじゃないとか。あ~んな風に言われたら、真実が気になって確かめたくなっちゃうわ。」
「別に確かめんでもええやん?何も困らんと思うで。」
「あ、そういう返事しちゃうんだ。忍足君だってやっぱり悪い男の子よ。」
「・・・悪い男の子なあ。」

忍足が操作を続けると、機械の口から、べえと2枚分の引換券が出て来た。
それを2枚とも抜き取る忍足。

「なんなん、その手。」
「え?だって1枚は私のでしょ?」
「まだチケットちゃうで。レジで払わな。せやろ?」
「ええ、だから1枚・・・ちょっと、侑士君!」

忍足は網代を華麗にスルーして、サッとレジに並んで2枚とも渡してしまった。

「えー、2点で・・・あ、確認ボタンをお願いします。」

「ねえってば!幾ら、」
「ええから払われときいな。」
「出来ないわよそんな事・・・」
「そない困らんでもええやん?」
「困るわよ。お母さんからも言われてるのに。」
「お母さん?」
「そうよ?「彼氏以外の男性から奢られるべからず」って、網代家の鉄の掟の内の一つなの。」
「ほんまかいな。」
「本当です!だから払わせて頂戴。」

払いたいが為の嘘か、それとも本当か。

いずれにしろ忍足は払わせる気はない。

「その財布しまっとき。あ、5000円でお願いします。」

「はい、5000円お預かり致しますー。」

「もう、侑士君・・・!」
「俺悪い男やからなあ。堪忍な。でも・・・悪い男子とずるい女子って、お似合いなんちゃう?」

そう言って、チケットを差し出す忍足が珍しくも微笑むものだから。

「怒られたら、一緒に怒られてくれる?」
「勿論。」
「ふふふっ。約束、ね?」

チケットを受け取って、網代は又可愛らしい笑顔を浮かべた。