ピー!と笛を吹きながら、可憐はストップウォッチを見て記録をつける。
そうしている間にも、汗が額から滴ってぽたっと落ちてくる。
(暑い・・・!)
本日の空模様、昼より曇り夜は雨。ただし朝はピーカン。
そのため午前中の今は正に文字通り空に雲一つなく、日光を遮るものが何もない状態で、部員達は炎天下文字通り汗を垂らしていた。
勿論水分だって塩分だって、言えば幾らだって出てはくる。
だが、それはそれとして暑いものは暑いのだ。
一応マネジ勢としても、タオルを冷やしておくなり出来るだけの事はしているけども。
「中休憩ー!中休憩の時間なんよー!皆日影に入ってなー!」
号令と同時にわっと部室に駆け込む部員とマネジ。
こう暑い+人数が多いと、日陰に入ってろと言っても全員というのは無理があるので皆エアコンの効いてる部室棟に駆け込んで息を吐くのだ。
もう部屋にも入らないで、廊下なりどこへなりに腰を下してふうふう言う部員達。
可憐達は大急ぎで冷やしタオルを出して部員に配りまくる。
「はいっ!はいっ!はいっ!・・・はいっ、向日君っ!」
「おー・・・」
受け取ったら、その受け取った腕が直ぐ下に落ちる向日。
広げる元気も今、彼にはないのだ。
「向日君大丈夫っ?」
「やべえ・・・やべえけどまあ、もうちょい座ってれば多分・・・」
はあ、はあ、と体内の熱気を吐く息に混ぜて逃がすかのように呼吸する向日。
可憐はタオルを取って広げて頭から被せてやるが、向日はあー・・・と僅かに気持ちよさそうな声を出すだけで、動けそうにはない。
(本当に大丈夫かな・・・)
「向日君平気なん?」
「あっ、先輩っ!一応本人は大丈夫って言ってるんですけどっ!」
「うーん、迷いどころやねえ。やる気は尊重してあげたいけど、途中で倒れられても困るし・・・」
「そうですよね・・・」
ちょっと本人から離れた所で、先輩マネジの長坂留美子と向日を伺う可憐。
合宿はまだ序盤なのだ。それこそ突然バターン!になってしまうと、本人的にも勿体ない。
「・・・よし、やっぱりちょっと別室で、」
「大丈夫です。」
「・・・忍足君っ?」
行きかけた長坂を止めたのは忍足だった。
その忍足も、表情は涼しいものの汗はいつになくかいていて、誰にとっても今日の暑さやら何やらがハードなのを思い知らされる。
「でもなあ忍足君、」
「まだやれますて。体力的にバテてるだけです。彼奴の為にももうちょっと見といたって下さい。」
「向日君の為に・・・?」
「ほんまもんの全国大会はこんなもんやないで。」
全国大会は、8月の真ん中。
今よりも暑くなる気温の中、敵と戦って体力を削られ、集中力を削られ、精神力を削られ。
ジャージが汗でびしょびしょになって、目に入って染みてきて、でも誰にも暑いし疲れたから助けてなんて言えない。
そういう所にこれから行くのだ、自分達は。
例えそれがこの夏じゃなかったとしても、この夏じゃないから別に良いでしょなんて言ってられない。
忍足は向日と全国へ行きたい。
性格的に暑いとか疲れたとかすぐ口に出して言うもんだからそう見えないだけで、向日はあれで部内でもかなり手を抜かないで意地でついていく方なのだ。
「岳人。」
「・・・ん?ああ、ゆーし・・・」
「保健室行く?」
「は?」
「しんどない?あれやったら今の内にベッドで横に・・・」
「するか!そんなんじゃねーよ、暑いだけだ!侑士お前、自分が涼しいからって馬鹿にしてんだろ!言っとくけどな、これが普通なんだよ!普通!」
「別に俺も涼しいわけやあらへんよ。」
「じゃあもうちょっと暑そうな顔しろよ!」
苦笑しながら忍足は横目でちらりと可憐と長坂を伺った。
「・・・ほんまや、まだいけそうやね。」
「はいっ!」
「じゃあ、続行言うことで。でも一応、こっそり注視はしとこ。」
「はいっ!」
今年の1年生は頼もしいわあ、と長坂に小声で言われて可憐は嬉しくなった。