実は割と最近の小学校6年生の夏のある日。
クラス対抗ドッジボールをLHRでしていた時に、それは起こった。
「ーーー!」
「千百合!」
「千百合ちゃん!?」
「・・・・ててて・・・」
「大丈夫かい?」
人にぶつかりかけて、避けようとしたら足の下にボールが転がっていて、それを踏むように着地してしまったせいで足を捻った。
痛い。
明らかにただ転んだわけではない痛みを感じる。
「千百合っちー!大丈夫!?大丈夫!?血が出てる!?」
「中断!皆、中断よ!黒崎さん!大丈夫?出血してる?」
「血は出てない・・・ません、けど、」
確かに血こそ出てないけど、血が出るより痛いかもしれない。
立てるかどうかわからない。
「保健室まで自分で行ける?支えがないと難しいかしら?」
「・・・多分。」
「わかったわ。ただ先生だとちょっと身長の差がありすぎるから、松葉杖か担架を、」
「僕が行きます。」
多分この時先生は、僕が「保健室に言って担架なり松葉杖なりを調達に」行きます、という意味だと思ったのだろう。
しかし当然その役は教師がやった方が早いので、先生はNOの返事をした。
「いえ、幸村君は此処に居て頂戴。先生がーーー」
「先生は身長差があると仰ったばかりですが。」
「え?あ、ああ、肩を貸してくれるの?でも、力が相当無いとーーー」
「それはしません。千百合、ちょっと我慢してくれるかな。」
「え、」
「行くよ。」
「え、」
膝の裏に手を差し入れられる感覚と、肩をぎゅっと抱えられる感覚がして、ぐんと体が浮遊した。
きゃあ、とそこかしこから女子の悲鳴。
おおっという男子の声も結構聞こえる。
至近距離にある幸村の顔。
ぶらついている自分の足。
「・・・え、え、」
「大丈夫、落とさないから。」
「ま、待って幸村君!危ないわ、落とすわよ!」
「落としません。落とすほど重くないですから。」
「いやいやいや!重いわよ何言ってるの!そりゃあ大人にとっては重くないけれど、君は小6で黒崎さんも小6で、」
「そう言われましても、本当に重くありませんから。それより、行っても良いですか。」
「ええええ・・・・!」
「行ってきます。」
「あ、ちょ、ちょっと!待って幸村君、それなら先生が、」
「失礼ですが、先生の方が怖いです。女性ですし、この前の体育の時の跳び箱を重そうにしていましたよね。」
「し、してたけど・・・」
「あれくらいで重いと思われるなら、俺の方が力は強いですから。」
何でも良いから早くして欲しい。
こうやって言い合っている間、千百合はずっと姫抱き状態なのだ。
視線が刺さる。凄い居た堪れない。どうしていれば良いのかわからない。
(待って待って待って、これどこ見てたら良いの、手とかどこに置いとけばいいわけ、)
幸村の方なんて恥ずかしすぎて見られないし。
周りも恥ずかしすぎて見られないし。
手とかもう本当にどうしたら良いんだ。
幸村の負担を軽くするために、首とかに回してしがみつけば良いのか。
無理。絶対無理。
「・・・・・・・・」
やり場がなくて宙に浮いていた手を、千百合はそっと胸の上に置くことにした。
確か、「ミモザ旅行記」でミモザがここに手を置いていた。筈だったから。
いやまあ。
手の位置が一緒だからなんて理由で、ミモザのように可愛いとされる女の子にはなれないのは百も承知なのだが。
でもやらないよりはやるに越したことは無い筈だし、なんて考え始めた頃に、ようやく幸村がしびれを切らして、半ば教師を振り切るように保健室に駆けだしたのだった。