My treasure 3 - 7/8


「え?何て?」
『だから・・・・の、ポーチ・・・キーが・・・・・で、・・・・』
「ダメだ、全然聞こえねえ!」
「困りましたね・・・さっきから、LINEもなかなか更新されませんし・・・」

紫希・丸井ペアは、現在誰よりも歩きやすい道に居たが、同時に誰よりも電波が通じにくい場所に居た。

柳生がカードキーを失くした。
たったこれだけの連絡が受けられず、「了解」の一報を入れない2人を気遣って桑原が連絡を入れてくれたのだが、会話もままならない。

丸井はあまりの会話のままならなさに、スマホを一度切った。

「はあ・・・」
「何か分かりましたか?」
「いーや?何か、ポーチって言葉は聞こえたけど。」
「ううん・・・・」
「・・・・おし。」

丸井はちょっと考えた。

「春日、ちょっとここで待ってろい。疲れただろ?」
「え?」
「俺、もうちょい上に行って来るから。で、どっか電波拾える所まで行って、連絡だけしたら帰ってくる。OK?」
「・・・分かりました、じゃあお願いします。正直、そろそろしんどくて・・・」
「おう、正直でよろしい。」
「うう、すいません、お任せしてしまって・・・」
「良いって良いって!俺まだ全然余裕だから、体力的には。」

スタミナ弱いと言われてる丸井でも、テニス部についていけるだけのスペックはある。片や紫希は平均に比べて大きく下回る持久力。
そろそろきつそうだな、なんてちょうど思っていた所だった。

まだ全然余裕、というのも別に強がりじゃない。本当にまだ余裕なのだ。
それを証明するように、丸井はさくさくと山道を駆け上がって行き、あっという間に見えなくなった。

「はあ・・・・」

紫希は道の脇に座り込んだ。

疲れた。きつい。
おまけに何かトラブルの気配がするし。

「皆大丈夫でしょうか・・・・」




(結構登ってきたな。)

一方の丸井は、電波を求めてそこそこ上まで登っていた。

『・・・ブン太、ブン太?聞こえるか?』
「あ!おしおし、来たぜい!聞こえる聞こえる!」
『ああ良かった・・・いや、柳生がポーチを落としたらしくてな。』
「へ?」
『落としたというか、猿に盗られたというか・・・・だから、別荘に入れなくて・・・』
「マジ?」
『ああ、だからそのつもりで行動をしてくれってことだ。』
「OK。ポーチ見つけるのと、別荘には行けないって前提でー---」

会話に集中していたのが悪かった。
と思う。後から振り返ると。

丸井は斜面の端から足を踏み外し、下へと転げ落ちた。


ガラ・・・ガサガサガサ!

大きな音と主に、丸井は全身を地面に打ち付ける。

「ー---!?っ、っ、っ~~~~~!・・・・ってえ、いてて・・・・」

衝撃で取り落としたスマホは、右手の近くでバウンドし、桑原の声を出し続けている。
丸井はとりあえずスマホを確保し、返事をした。

『ブン太!?おい、ブン太どうした!?』
「いや、ちょっと滑っち、まっ・・・って・・・・?」

え。嘘。
声なき声が丸井の口から出た。

落ちた方向を見たが、高い。
これじゃとても元居た場所まで登れない。

おまけに、着地した道の一方は、土砂で埋まっていて通行不可。

残るもう一方はと言えば。

「・・・嘘だろい?」

丸井が落ちたのは、宇井トンネルの反対側であった。
最初に見かけた、あの気味が悪くて避けたトンネル。
出口側の前に落ちたのだ。

もう戻れない。
トンネルを進むしかない。
そろそろ暗くなり始めていて、一層意味が悪くなっていてもだ。

「・・・・・・」
『ブン太!怪我はないのか?大丈夫か?』
「ジャッカル、頼みてえんだけど。」
『え?』
「俺、落ちちまったからさ。」
『・・・動けないのか?』
「いや?戻れるけど。ただ、春日が一人になっちまうから。」
『え?一緒に居ないのか?』
「おう、電波悪かったから。」

紫希に何かあったら助けなくちゃと思ってはいたが、まさか自分が先にトラブルに見舞われるなんて思ってもみなかった。
しかし、今となっちゃ、それで良かったとも思う。
こんな高い斜面、高所が怖い紫希には堪えるだろう。

「で、今から連絡して最初の所まで戻るように言うから。」
『ああ、ええと・・・合流すれば良いのか?』
「そう、頼む。」
『ブン太は大丈夫なんだな?本当に?』
「平気平気!怪我してねえし、歩けるし。位置も分かってるしな。」

トンネルの出口、というのは考えてみれば幸いかもしれなかった。ここを通れば、必ず行きに通ったあの入口に出られる。

問題は、中が真っ暗で何があるのかさっぱりわからない所だが。
いや、これはまあ、大部分が心情の問題だ。あの映画に、未だに引きずられているから気味が悪いのだ。

「・・・・おし!行くか。」

丸井は紫希にLINEを送った。
ここからなら近いから、多分距離的に電波は届くだろう。

『行けそうな道見つけた。俺だけで行ってくるから先に戻っとけよ?疲れただろ。』

既読が着いたのを確認して、丸井はトンネルに入る。