Solicitation:1st game 3 - 6/7


「おし、じゃあ行くぞ妹・・・」
「おっしゃ、来い。」
「待って、なんで俺に向かって振りかぶってんの!?ボードはあっちよ!?」
「分かってるからさっさと球出ししやがれ。」

我が恋人はやっぱり優秀だと千百合は思う。
彼氏が云々じゃなくて、幸村は人を冷静にさせる力がある。

おかげで大分落ち着いた。
遠慮なくあの兄をボコれる。

「・・・・・・」

パシュ、という音と共に出てくるボール。

真っ直ぐ向かってくる。
狙って。
狙って。
良く狙って。

目指すは、あの腹の立つ面だ。

「・・・おら!」
「ちょ、おま!」

千百合の返球は真っ直ぐ、真っ直ぐ棗のpcにクリーンヒットし、跳ね返って9番パネルを貫いた。

「おーーー!やったー!凄ーい、千百合っちー!」
「チッ、PCに当たったか。」
「あ、あり?嬉しくないの?」
「お前そんな事より俺のパソ子に何してくれてんの!?」
「もう一台あるんだろ、ガタガタ言うな。」
「あるけどさ!壊れたら復旧に手間が、」
「でも・・・今回はお前も悪いぞ?」
「桑原の言う通りだ。そもそも人をからかう材料など持って居るからそういう事になる。」
「そーそー!なっちんはちょっと千百合っちを苛め過ぎですぞ!いくらいもーとだからって!」
「うううお前らの心の綺麗なコメントが辛い・・・」
「まあ、これに懲りたら妹虐めも大概にしんしゃい。」
「お前が言うか!?ええ!?」

「ーーー・・・ーーー・・・・」
「幸村。・・・おい!幸村!」
「真田君、そっとしておいた方が良いかと。何か考え込んでおいでのようですから。」
「考え込んで・・・?」

幸村はさっきから、ボードを見ては目を閉じてふるっと首を振り。
そして気を取り直して平常心に束の間戻るのだが、また目を閉じて首を振り・・・を繰り返している。

紫希はそれを見てちょっと青い顔である。

「春日?どうした?」
「幸村君が怒ってます・・・」

あくまで仕草は穏やかなので分かりづらいが、ああいう振る舞いは、怒りや動揺で我を忘れかけている時のシグナルなのだ。

「・・・マジ?」
「はい。ゲームが強制終了にならなければ良いんですけど・・・」

(怖え・・・)

「早く、ほら、ゲーム、早く、」
「いた、痛い、痛いよ!蹴らないでよ妹!」

「千百合っち怒ってるーう!まあしょーがないかな?」
「あれは誰でも怒るだろ・・・」
「辛うじて怒りの矛先は黒崎に向いているようだがな。」

本当は仁王にも向けたいのである。
テニス部全体の為に我慢しているだけだ。

【任意の人間を2人選び】

「仁王。」
「くると思うたぜよ。」

もう完全に狙い撃ちである。
チームの為とかより私怨優先なのを隠そうともしない千百合だが、先に喧嘩を売って来たのはあっちだ。

「俺は構わんが後1人はどうするんじゃ?」
「そーね。」

本当は棗を指名して一纏めにして痛い目を見せたいところだが、ある程度ルールを一緒に作ったビードロズ達は、GMを指名出来ない事を知っている。

次点で指名したいのは幸村なのだが、それもちょっと恥ずかしいし、何よりお題がどう転ぶか分からない。
巻き込みたくはないし、藪をもう一度不用意に突きたくはない。
仁王は置いといても自陣の皆はチームの為に頑張っているのだし、それを視野に入れると相手チームから定石通り選ぶ事になるが。

(真田はこういう時融通効かないし、紫希はリンチに加わる様な性格してないからな・・・)

「・・・丸井。」
「!・・・オッケー!」
「黒崎、お前さん「慈悲」っちゅう言葉を知らんのか?」
「何それ、紫希の作るお菓子とどっちが美味しい?」

何故丸井か。
それは勿論、丸井も仁王に先程の懺悔のゲームの件で一泡吹かせてやりたいと思っているからである。
丸井もそれを察してくれたのだろう、OKを出したその声音はなんとなく弾んでいる。

「2人選んだわよ、ほら早く続きを出せよ。」
「痛いってだから!なんで脛を狙うの!弁慶の泣き所だからか!」
「弁慶に失礼な事を言うんじゃない、脛に傷塗れのクセに。」

【自慢大会をして勝つ】

「「「自慢・・・?」」」

「自慢大会?何の自慢したら良いのー?」
「おそらく、それも含めて勝てるよう策を練れ、という事だろう。」
「確かに、自由度が高い分上手くやれるかどうかが大きそうだな・・・」

「ああこれは・・・」
「うん・・・千百合が多分、一番不利だね。」
「黒崎さんは、自慢をするような性格ではありませんからね。」
「だが、何の自慢と指定はされていないのではないか?それなら・・・」
「どんな自慢でも不利なんだよ。千百合はそういうのが凄く苦手なんだ。」

ポジティブな事であれネガティブな事であれ、私が誰より1番♪な事を主張すると言うのが千百合は苦手である。
目立ちたくないと言うより、そんな特別な事なんてそうそう身の回りに転がっているわけではないという、冷静かつ現実的な判断からだ。

「これって、自慢の中身は黒崎が決めるんだろい?」
「そうねwブンブン君と仁王はそれに合わせて自慢してくれw」
「こっちが不利じゃの。」
「まあ元々そう言う風に作ってあるw」

(自慢、自慢・・・不幸自慢って言葉があるし、悪い事でも良いんでしょ?要は私が丸井と仁王と比べて、より勝ってる事を言えば良いのであって・・・・)

「・・・よし、決めた。」
「意外と早いの。」
「おし、来い。」

「この中で誰の兄弟が1番クズかの自慢大会をしよう。」

仁王はぐ、と声が出そうになるのを必死で我慢した。

「おおお・・・やべえ、勝てる気がしねえ。」
「丸井はそうでしょうね。」

(まずい、これはまずい。)

何がまずいと言って、この秘密至上主義の自分が家族の事を語るのがまずい。
はっきり言って、やりたくない事ベスト10に余裕で入るくらいには嫌。
兎に角プライベートに踏み込まれるのはまずいが、なあなあで流そうと思ってもどこまで流せるか分からない。
今話の主導権は千百合にあるのだ。

「先ず、丸井のクズ自慢からどうぞ。一番この中じゃ弱いと思うし。」
「まあな。俺チビ達の事大好きだもん。」

この件に関してはもうすっかり開き直りきっている丸井。
もう何も怖くない。

「敢えて言うならそうだなー、最近は前にもまして遊んで遊んでって寄って来るから、もうちょい聞き分け良くなってくれると助かるかもな。まあ構ってやれない俺が悪いんだけどさ。」
「良いお兄ちゃんか。」

此処まで微笑ましいと、なんだか兄弟の悪口言えと勧めるのが心苦しくなってくる。

「ああ、それから最近は兄ちゃんの友達と遊びたいって騒ぐようにもなった。家に呼べって。」
「そうなんか?」
「おう。ジャッカルは今迄何回か来て相手してくれてたけど、それが楽しいもんだからさ。兄ちゃんの友達と遊ぶのは楽しいって思って期待してる所あるんだよ。」
「仁王は呼ばない方が良いわよ。」
「安心しろい、俺もそう思ってるから。」
「酷い奴じゃき。」
「「日頃の自分を見てから言え!」」

「えー?どしてどしてー?ニオニオが遊びに来るとか、ぜーったい面白いじゃん!手品とか見せてくれるかもだしー、ちっちゃい子なら尚更面白いと思うんだけどなー。」
「手品で済むか分からないから問題なのだろう。」
「余興なら良いけど、彼奴の悪戯はえげつないからな・・・」

例えば極端な話、隙を見て丸井に変装して、兄の振りをして弟をおちょくるとかそういう事も仁王は出来るのである。
小さい子はトラウマ必至だが、流石に其処まではやらないだろう、と言い切れないのが仁王の怖い所だ。

「桑ちゃんはブンブンの家遊びに行った事あるのー?」
「ああ。小学生の頃なんかは良く行ってたな。最近は時間が無いけど。」
「へー!良いなー、私も行きたいー!」
「ああ、喜ぶと思うぜ?」
「マジか、やったー!今度遊びに行っちゃおー!」
「俺が言うのもなんだが、良いのか桑原?」
「賑やかなの好きだからな。五十嵐辺りなんかは遊ぶの上手そうだし、きっと懐かれるぞ。」

「松も最近零す様になったな。近頃は皆が遊びに来ないから寂しいって。」
「妹さんですか?」
「うん。松って言うんだ。小学生の頃は良く、弦一郎や千百合達と一緒に遊ぶ機会が多くて。それが楽しかったから、皆が忙しくなると寂しいんだろうね。」
「そういえば暫く顔を見て居ないな。元気にしているか?」
「うん、元気だよ。学校も楽しそうだし。」
「・・・あの、幸村君。」
「ん?」
「私が勧めるのもおかしな話ですが、そのう・・・私達が駄目なら、あのう・・・」
「・・・ああ!ふふふっ。」

分かった。紫希の言いたい事が。

「俺も勧めてるんだよ。」
「え?」
「折角同じ小学校だからね。気も合うみたいだし、蓮君ともっと遊んでも良いんじゃないかな?って。それとなく言ってはいるんだ。」
「そうなんですか?」
「うん。でも、恥ずかしいみたいで。ふふ、可愛いだろう?他の子とは、男子でも女子でも平気な顔をして遊んでるのにね。」
「わあ・・・・!」
「蓮くんというのは、お友達ですか?」
「五十嵐の弟だ。幸村は五十嵐と昔から家ぐるみの付き合いだからな。俺も話でしか聞いた事はないが、仲良くしているらしい。」
「?しかし遊ぶのが恥ずかしいと・・・ああ。」

なんという微笑ましい話の流れ。
小さな恋の物語と言うのは、かくも人の心を暖かくする。
波乱は会って欲しくないけれど。そこは別にチッチとサリーの真似なんてしなくてもよろしいと思うけど。

「なんか又紀伊梨が勝手な事言ってる。」
「良いよ、来いよ。皆喜ぶし。」

桑原も言っていたが、特に紀伊梨辺りは絶対喜ばれる。
変な悪戯さえしなければ、仁王や棗も懐かれるだろう。
幸村や柳生、柳も物腰穏やかだ。
真田と千百合はちょっと馴染むのに時間がかかるかもしれないが。
紫希は。

(そうだった、後で謝っておかねえと。)

「丸井。」
「ん?」
「どうしたんじゃ、急に黙って。」
「ああいや、なんでも。ま、取り敢えず俺の話は終わり。」