Solicitation:1st game 3 - 4/7


「・・・・・・」
「春日。春日、聞いているかい?」
「おい、春日!春日!」
「その・・・申し訳ありません。」
「いやお前の所為じゃねえよ?ちょっと運が悪かった・・・あれ?良かった?」

現在、ボード2枚目の4巡目。
戦況は逆転し、Bチームがパネル1枚リードしていた。
Aチーム4巡目の紀伊梨が、「任意の人間を1人選び、クイズを出して貰って正解する」というお題に引っかかって、ゲーム未クリアでパネルを落とせなかった。
そして先程、柳生がアタックチャンスでパネルを2枚落として形勢逆転となったのだ。

なったのだ。

なったのだが。

「やはり、少々春日さんには厳しいでしょうか・・・」
「そうだね。たった1枚だから。」

そう。
元々3枚だったのを柳生が2枚落としたので、残りパネル1枚になってしまったのだ。

「幸いにも、残っているのは5番だ。1番当てやすいとも言えるが。」
「コントロールがある程度出来るんだったら真ん中は有難いけどよ。」

正直、下手くそにとっては端だろうが真ん中だろうがさして差は無い。
まだマシレベルの話にしかならない。

(無理です・・・無理です・・・無理です・・・出来ない・・・)

落とせない。
自分には出来ない。

紫希はすっかり自信が吹っ飛んでいた。

そもそもこういうのが下手くそなのに、よりにもよってなタイミングで回って来てしまったこの状況。
おまけにリードしているのだから、このリードを保たなければいけないのにと言うプレッシャー。
紫希にとって、苦手な物という苦手な物が一気に襲い掛かってきているようなものである。

しかしさりとてどうしようもない。
誰も代わりは出来ないし、手伝ってもやれない。
自分でなんとかするしかないのだ。

(そうです、なんとかしないと・・・でも、でも、どうしたら・・・)

多少テニスの練習したとは言え、元々下手な所に多少でしかない。
しかも、あんな風にある点をピンポイントで狙い打つような練習はしていないのだ。

「春日!」
「丸井君・・・丸井君、私、どうしたら、どうすれば・・・」

おっとこれは又丸井が魔法を発揮して、2人の世界を作りながら紫希を励ますパターンですね。
と全員が察したが。

「良いか?まず、ボールはあっちから飛んでくんだろい?」
「はい・・・」
「来た!と思ったらクシッと膝を曲げて、右斜め後ろに肘をスッて曲げる感じでヒュワッと振りかぶれ。」
「ちょっと待ってw」

棗はうっかり静止をかけた。
違う。
なんか違う。思うてたのと色々違う。

「あ?なんだよ、アドバイスは無しとか今更言うなよ?」
「違うwそれじゃなくてw」
「?」
「あの、丸井君続きを・・・」
「ああ。で、5番パネルを狙って振る時は、メレンゲを混ぜる時くらい手首を捻ってスパーン!っていくんだ。スパン!は駄目だぞ、隣に行くからな。」
「はい。」

はいじゃないが。

「一つも分からん・・・」
「私もです・・・」
「そう?なかなか上手な説明だと思うけれど。」
「分かるのか!?」
「どういう事ですか?」
「つまりね?丸井の言いたいのは、大体この程度膝を曲げて、」

「なんで春日は分かるんだ・・・」
「幸村も分かっているようだな。」
「まあ一定数居るんじゃなか、ああいう事を言い出す奴は。あそこのそいつみたいに。」

あそこのそいつ。
紀伊梨は早速、今聞いた事を実践している。

「膝をクシッと曲げてー、ヒュワってしてー、あり?スパンってなっちゃう・・・ねー千百合っちー!メレンゲ混ぜる時の手首の捻りってどんなのー?このくらい?」
「知るか、私に聞くな。」


「・・・って感じで行けば大丈夫だ。」
「はい。」
「もう良いかw出来る?w」
「はい、お願いします・・・」

おずおずと前に出る紫希。
正直、ああしろこうしろ言われた所で、それを実現するだけの身体能力が自分にあるのかがそもそも疑わしいが。

(い、いえ!頑張らないと、呑まれてはいけません、出来ないなら尚更、出来るって信じないと・・・!)

気持で負けていては、出来るものも出来なくなる。
だから出来ると思わないといけない。

そうは言ってもなかなか上手くはいかないけれど。

「行くぞw」

パシュ。
と飛び出してくるボール。

(膝を曲げて、右斜め後ろに振りかぶって、手首を捻って・・・!)

「・・・えい!」

紫希の返したボールは、真っ直ぐ真っ直ぐ5番パネルーーー

と、6番パネルがあった所の枠をめがけて伸びていった。
カン!と無情な音が響く。

「すみません・・・・!!!」

もう嫌だ。
馬鹿。馬鹿め。この足手纏い。

「すみません、ごめんなさい!申し訳ありません、」
「大丈夫だって。そんな悪いコースでもなかったぜ?」
「うん。丸井の言ってた通り出来ていたよ。ただ、やっぱりどうしても力が弱いね。」
「すみません・・・」
「お気になさらないで下さい。女性が非力なのは、当たり前の事です。」
「ああ。お前は良くやった。後は任せておけ。」

(・・・ま、これが本来あるべき姿じゃな。)

紀伊梨も千百合も柳生も取り立ててスポーツが不得意というわけではないので、当たり前のようにバカスカ当てているが、本来もっと外しててもおかしくはない。

紫希だって下手だ下手だと言う割には食いついている方である。後の3人が、やった事もろくすっぽ無いのに、ミスをしなさ過ぎなのだ。

(とりわけ、柳生じゃな)

紀伊梨と千百合は運があるというか、パネルが残った状態で回ってくる事が多いので比較的楽が出来ている。
だが、柳生は今も残り3枚しか無い状態で綺麗に当ててみせた。
あれは褒めざるを得ない。

「・・・あっちの勝率は思うてるより高いかもしれんの。」

「いいか紫希w行くぞw」
「はい・・・!」

此処でしくじればパネルが戻る。
成功させなければいけない。、

「はい、ドンw」

【最近あった恥ずかしい事】

「今、パネルを外し・・・」
「あ、それは駄目w」
「駄目なんですか!?」
「お前恥かいてないじゃんwすまながってるだけでw」
「あう・・・」

「なかなか難しいね。」
「春日さんの性格上、何か失敗されるとご自分を責める気持ちが先行してしまうようですからね。」
「そもそも、失敗して恥じる気持が起こるのは行動に移す前に良く考えんからだ。後悔しない選択をしていれば、失敗した所で恥じる事など無い。」
「いや、そこまでじゃなくてよ。何かこう軽い事で良いんじゃねえ?滑って転んだとか。」
「滑って転ぶのがたるんどる証拠だ!」
「あ、そう。」

「桑原、黒崎よう見てみんしゃい。」
「「?」」
「ああやって丸井みたく、ああはいはい、で流すのが真田と付き合うコツじゃ。必要以上にまともに取るから、人より余計に怒られたりいちいち喧嘩になったりするんじゃ。」
「ああ・・・うん・・・」
「分かってるけどムカつく。」
「やなぎーは真田っちと喧嘩しないよね?」
「そうだな。そもそも俺も幸村も、真田と意見が合わない、という事がそもそも珍しい。」
「ほー!仲良しさんだー!」

周りが口々に会話する中、紫希はさっぱり考えつかないでいた。

(恥ずかしい事・・・恥ずかしい・・・)

「春日。」
「真田君?」
「俺は恥じるような事とは思わんが、先日の話をしてはどうだ?」
「先日?と言うと・・・」
「古典のテスト返却の時に、恥ずかしいからやめてほしいと言っていただろう。」
「・・・・・!」

カッ!と赤くなる紫希。

「いや、あの、あれはあの!」
「何故だ。条件にあっていると思うが。」
「そうですけど!でも、」
「ああ、あの話か。」
「千百合っちも知ってるのー?良いなー!良いなー!聞きたーい!」
「うう・・・」

しかし此処で嫌です、は通じない。ゲームに勝たなくてはいけないのだから。

「・・・先日、古典のテスト返却の際に。」
「はいw」
「先生の解説が大問2番の最後の、登場人物の気持の問題に差し掛かりまして。」
「はいw」
「この問題で正解していたのは真田君と私だけだと先生が仰ったので・・・」
「ああ注目を浴びて恥ずかしかったのねw」

今思い出しても顔から火が出そうである。
皆がこっちを見るし、解答見せてと言ってくるし。頼むから自分の拙い解答なんか見ないでくれ、と願いながら縮こまったあの時間のいたたまれなさ。

「解せん。正解しているのだから良いではないか。」
「・・・・・」
「なんだ黒崎千百合、その目は。」
「私何も言ってないわよ。」
「言ってるようなものだろうが!目は口ほどに物を言うのだぞ!」

「あの問題は、確かに少々難解でしたね。」
「柳生はどうだ?正解出来たか?」
「いえ、お恥ずかしながら。前半部の、謙虚さを表現したかった、というくだりを書くのを失念していまして。柳君は?」
「俺も、後半の所で鳥と並べて筆を挙げるのを書き漏らしてしまった。1点減点だ。」

「????」
「何の話しとるのか全然分かっとらん奴が居るの。」
「お前はマジで、もうちょいで良いから普段からやれよい。」
「だってー!机に座ると眠くなっちゃうんだもーん!」
「それはわかるけどよ。」
「眠いならブラックのコーヒーでも一気飲みしんしゃい。普段飲んどらんのならカフェインが良く効く筈じゃき。」
「「嫌だ美味しくない!」」
「息ぴったりじゃな。」

「桑原はどうだった?」
「あの問題か?俺は少ししか・・・」
「いや、そうじゃなくて古典全体としてどうだったか聞きたいんだ。今回は結構、勉強していても突かれると痛い所を突いてくる問題が多かったからね。困らなかったかい?」
「ああ・・・でも、思っていたよりは取れてたな。」
「そう。それは良かったよ。」
「けど、やっぱり勉強会が大きかった。教えて貰ってなかったら取れてなかった所が沢山あったし。」
「ふふっ、そうか。それなら、次のテストでもやろうかな。教える側としても、1人でやるより覚えるからね。」
「・・・・・・」
「なんだい?」
「いや。幸村は良い上司になるなと思ってな。」
「あははっ!光栄だけど、それは初めて言われるな。良い上司・・・自分では思った事はないけれど、そうかな?」
「俺はそう思うぜ。」

幸村は何時も、前を向いていると同時に周りを絶対視野から外さない力がある、と思う。
部活の時もいつも、今みたいに困っていると、大丈夫?困ってるんじゃない?もし上手くいかないならああしたら良いよ、こういう手もあるよ、と何くれとなくアドバイスしてくれる。
それでいて、ただただ穏やかと言うだけでは無いから皆ついていくのだろう。

「あの、もうこのお話で良いですか、」
「えーwどうしよっかなーwなんか俺的にはそんな恥って感じじゃないしなーw」
「そんな・・・!」
「棗?そういう意地悪は良くないよ。」
「はいはいw」