いっぱいだ。
それこそ頭の中は、その事でいっぱいであった。
「後ろまで回ったかなー?持って無い人は居ませんかー?」
網代の声が第1部室に響いた。
大凡30人を収納出来るこの部室は、今隙間なく人が詰めていて、何人かは机に座れず壁際に椅子を置いて其処に腰掛けていた。
「ひい、ふう、みい・・・うん、これで全員ね。じゃあ、今から氷帝学園中等部男子テニス部マネージャーの、説明会を始めます!」
「よっ、よろしくお願いしますっ!」
可憐と網代が頭を下げると、他の者も皆一斉に頭を下げた。
壮観だ。
「じゃあ先ず最初に、我等が部長様に挨拶をお願いします。・・・どうぞ、跡部君。」
「ああ。」
可憐のすぐ側に居た人が、キングだわ、とポソリと言ったのが耳に入った。
(正しく・・・)
ちょっと肩を竦める可憐の視線の先で、跡部は実に堂々とマネージャー達の前に出た。
「知らねえ奴は居ねえと思うが・・・俺がこのテニス部の部長にして学園の支配者、跡部景吾だ。」
何が空恐ろしいと言って、学園の支配者という響きが比喩でも大袈裟でもなんでも無い事であろう。
「良いか、此処での大原則は先ず、序列だ。1番使える奴が1番上で、使えない奴はより使える奴の下に着く。No.1は勿論俺様だが、その俺様は殊マネージャーの事に関してはこの網代茉奈花に一任してある。従って、お前らは俺に仕える事の次に、この網代の手足になる事を優先して貰う。」
流石に口にこそ出せないのだろうが、皆なんとなく目の色が不安に彩られていく。
ある程度は覚悟していただろうが、なんという縦割社会か。
樹形図にもなっちゃいない、一本道である。
「その事を踏まえた上で良く聞け。良いか、俺達男子テニス部は、今年全国で優勝する。」
今度こそ少し騒ついた。
全国の壁は分厚い。
其処に向かって気負いなく優勝と言う跡部の度胸たるや。
「今年だけじゃねえ。来年も、その次もだ。その為には、負けは許されない。それは選手も勿論、お前達マネージャーにもそれは当てはまる。良いか。」
跡部の目が厳しく細められた。
「怠けるな。楽をしようとするな。やるべきと思った事は全て全力で取り掛かれ。網代に一任するとは言ったが、忘れるな、網代の上には俺が居る。網代が良しとしても俺様が使えないと判断した奴は出て行って貰う。」
怖い。
全員がそう思っている事を可憐は、そしておそらく跡部と網代もひしひしと感じた。
「・・・以上だ。網代、後はお前がやれ。」
「はーい。」
言うだけ言うと、跡部は颯爽と部室を後にした。
「・・・さて!我等が部長さんのご紹介に預かりました、網代茉奈花です!と、言っても皆知ってると思うけどね、面接したから。」
戯けた調子で話し出す網代。
上がああだとフォローは大変である。
「ええと先ずそうね。さっき部長・・・跡部君の言った事に補足をしようかな。私に一任する、って言ってたと思うけれど、私其処までなんでもかんでもたった1人で決める気は無いの。優秀な副リーダーさんが居るから、ね?」
「・・・え?」
何の話、と可憐が問いかける前に網代は可憐の手を引いて壇上に上がらせた。
「と、言うわけで!この子は私より優秀な副リーダーの桐生可憐ちゃんです!宜しくね!」
「えええええっ!?」
宜しくお願いします、と皆再度頭を下げてくるが困る。
というか聞いていない。
「まっ!待って茉奈花ちゃん、困るよっ!」
「あら、嫌?」
「い、嫌っていうか・・・」
「うーん、でもほら!私の言う事は、跡部君の言う事の次に絶対だから、ね?」
「ううう・・・・!」
分かってる。
言われてしまったら、やるしか無いのだ。
それしか此処に居る術はない。
「可憐ちゃんの事は逆に、面接には居なかったから皆あんまり知らないんじゃないかな?でも彼女は、とっても優秀よ。だから皆は、私の言う事と同じくらい、可憐ちゃんの言う事を良く聞いて欲しいの。」
(うわあああああん!)
叫び出したい。
なんだかドンドン大きな権限を与えられては居ないだろうか。
「じゃあ次に、具体的なマネージャーの業務を説明するわね。手元の冊子を見て貰えますか?」
皆がペラペラとページを捲った。
「あ、今誰か見やすいって言ったわね?そう、これは可憐ちゃんが手がけてくれた、私達の虎の巻よ!此れからはこれを元に動いて貰うから、内容は全部頭に入れて。全部よ。」
「全部?」
「全部って・・・」
「あ、あのっ!全部って言うのは、本当に全部ですっ!無駄な事は一切書いてませんっ!本当に、最低限此れだけは覚えて欲しいって事だけ書いてて、だから、あの~~~、」
あわあわぐるぐるする可憐に網代が続いた。
「可憐ちゃんの言う通り。此処に書いてある事は、隅から隅まで重要事項よ。日々の業務から部員の名簿迄、全てね。出来ないとは言わせないわよ、跡部君は部員の名前と顔を含め、此れを3日で覚えちゃうんだから。」
どよめく部室内。
「あ、あのっ!3日は流石に跡部君じゃなきゃ出来ないからっ!だから、あくまで目標にって感じで!」
「そうね。1週間で、大凡の内容を叩き込んでくれれば良いわ。多分、思っているよりは楽な筈よ?実際にやってみた方が覚えるだろうしね。」
あの、と誰かの手が上がった。
「ん?何かしら?」
「これって、テストなんかはあるんですか?」
「テスト・・・」
「うーん・・・可憐ちゃん、どう思う?」
「え、私?」
「可憐ちゃんが作った物だし、可憐ちゃんの見解として、どう?」
テスト。
考えてもみなかった。
だからテストなんて無い、と言えばその通りではあるが。
(・・・でも。)
可憐は真っ直ぐ、全員を見渡して言った。
「・・・此処に居る限り、毎日がテストだよ。」
テストがどうのとか聞いてくる人は、多分まだ理解が追いついていない。
自分達は常に、いついかなる時も実力を試されている。
それが我等がキングーーー跡部景吾のやり方だ。