Solicitation:1st game 3 - 2/7


ゲームは進み、現在Aチームはボード1枚で1ポイント。
2枚目ボードにパネルが5枚。
Bチームはパネルが6枚である。

次はAチームの攻撃。順番は仁王。

「頑張れニオニオー!リードしてるぞー!」
「リードっつっても1枚だけでしょ。」
「いや、そう馬鹿にしたものでもない。現在、戦力はトントンか、やや此方が上回っているか、いないかという所だ。その状態での1枚リードは向こうにも大きい。」
「こっちが上なのか?あっちは幸村に真田に、ブン太まで居るのに・・・」
「それでも、総合的な地力では此方が上だ。五十嵐も黒崎も、ある程度パネルが残っていれば何処かには当てられる程度には出来る。」

それでもこう言ってはなんだが、紫希は完全に足を引っ張る側に回るだろうと踏んでいた。
だがなかなかどうして、残りパネルの枚数にも寄るにせよ、3回の内2回はちゃんと落としているのだ。
だから勝利するとしても、余裕とはいかないだろう。
しのぎの削り合いになる筈。

「結構歯抜けねw辛いんじゃないのw」
「まあな。」

今5枚残っているが、1、2、6、7、9と、なかなか綺麗に残っているとは言い難い。
この辺狙っといたらどっかに当たるだろう、とは言い難いこの配置。

特に辛いのはあの7である。

(7番が孤立しとるな・・・周りにパネルが1枚も無い)

つまり、あそこを狙うと外す可能性が高い。
が、逆に確実に抜けるのは誰と言われると柳だけ。
そして次に柳が回って来るまで、千百合と紀伊梨が間に挟まる事を考えると。

「行くぜw」

パシュ!

(どの道狙わなければいかんのじゃ)

「・・・フッ!」

レギュラー戦の時より真剣に仁王が返した球は、綺麗に7番パネルの真ん中を貫いた。

「おー!やったじゃーん!角のとこ取りましたぞ!」
「へえ。さっきと言い、彼奴こういうの上手ね。」
「いや・・・そうでもないぞ。」
「は?」
「桑原の言う通りだ。仁王のコントロールの技術については、部内でも下手とは言わないが、抜群に上手いというわけでもない。」
「そーなのー!?」

「で、でも先程も1枚目ボードの最後の1枚を抜いてらっしゃいましたよね・・・?」
「ああ。だが、毎日の練習でも仁王が此処までコントロール能力を発揮した事はない。」
「ふふっ。教えてあげようか?仁王の芸当の秘密を。」
「幸村君は分かんの?」
「勿論。」
「して、それはなんです?」

「君だよ、柳生。」

「・・・!」

目をまんまるにする柳生に、幸村はクスッと笑う。

「仁王は、君とダブルスを組みたいんだ。それでこそ、自分のやりたいテニスが出来ると思ってる。」
「彼奴、そこまで本気だったのかよ。」
「そこまでも何も、仁王は最初から本気でしかなかったと思うよ。毎日・・・あのレギュラー戦の日でさえも、何時も仁王は目の前のテニスじゃなくて、何処か遠い所を見ていたからね。」

幸村は、仁王に勝ち残る気が全くないのに気がついていた。
何も言わなかったのは、それがただ怠けているという訳ではないことを知っていたからだ。

その眼は何時も何か。
何かも分からない、自分に足りない物を探して、探していた。

そして仁王は見つけたのだ。

「現状チームメイトの俺が言うのもなんだけど、柳生。覚悟しておいた方が良い。」
「覚悟・・・」
「彼奴は本気だという事だ。」

そして他の皆も又本気である。
ビードロズ達は友人として。
テニス部部員はそれに加えて部員としても、仁王の為に尽力する価値があると思っている。
きっとゆくゆくは、柳生という人間が立海テニス部の財産の1つになると信じているから。

「なんじゃその顔は。」
「お前が照れてる顔するのは貴重だなって顔だよw」
「黒崎に同情するナリ。」
「どういう意味だw行くぞ、ドンw」

【任意の人を1人選び】

これで仁王は3度目のゲームとなるわけだが、2度目のゲームは最近ラッキーだと思った事は?だった。
こうやって面と向かって人を巻き込む系は初めて当たるが、仁王はこれに当たったら絶対、絶対指名しようと思っていた人間が居る。

「幸村。」

迷いの無い声音の仁王。

「俺かい?良いよ。」

(こんな機会でも無いと大手を振って突けんからのう。)

柳生はまあ仕方がないとして、入学当初から部活で一緒なのに飛躍的にデータの少ない男。
それが幸村精市だった。

無論この場合のデータと言うのはテニス的な事ではなく、プライベート寄りの事である。

(別に私生活が分からんとかいうわけでもないのに、此奴だけは変装出来る気がせん・・・)

「仁王?」
「ああいや、なんでも。で?ゲームはなんじゃ。」

【何か1つ駄目出し】

「え、駄目なとこなんてゆっきーになくない?」

紀伊梨の言葉は皆の総意であった。
某巨大掲示板風に言うなら「>>2で終わらせるな」と言われるであろう、結論の速さ。

「これは厳しいぞ・・・」
「ああ。俺も考えてみろと言われても、何も浮かぶ気がしない。」
「仁王って何気に引きが弱いのね。」

「何かありますか?私は幸村君の事をそれ程知ってるわけではないのですが・・・」
「いや、全然。見当もつかねえ。」
「俺も同意見だ。勉学、運動、部活、人柄・・・凡そ欠点が見当たらん、彼奴には。」
「・・・強いて言うなら、ほんのちょっとだけ穏やか過ぎる気がしない、でも、ない・・・くらい、でしょうか?」
「それ欠点じゃなくねえ?」
「ですよね・・・」

「これは俺も興味深いな。良い機会だし、なんでも言ってくれて良いよ、仁王。直せる所なら直そう。」
「・・・・・・」
「仁王?」

(・・・思いつかん。)

どうしよう。
割とガチめに思いつかない。

千百合関連の事は、幸村でなくて千百合の方にダメージが入るのでそれこそフレンドリーファイアになってしまうし。
お前なんでそんなに完璧なんだよ!変装出来ないだろ、止めろよ!という文句もあるといえばあるけれど、変装を企んでいるとは知られたくない。出来ないなんて情けないし。

「・・・そうじゃのう、じゃあ・・・」
「うん。」
「・・・お前さん、普段からもう少しこう、キリッとした顔にはなれんか?」
「ん?」
「顔というか、まあ表情の話じゃ。」

もう少しキリッとした顔。
という事はつまり。

「俺が普段、ぼうっとしているように見えるって事かい?」
「違う。普段は聖母マリアみたいな顔で微笑んどるじゃろ。」

「聖母マリアってなーにー?誰ー?」
「イエス・キリストの母と言われている人です。紀伊梨ちゃん、教会で女の人の像を見た事はありませんか?それが聖母マリアの像です。」
「あー!あるある、あれがマリアさんかー!うん!確かにゆっきーみたく優しい顔してますなあ!」

「・・・実はな、柳生。」
「桑原君?」
「隠し立てしても直ぐバレるだろうから敢えて言うけど。」
「はい。」
「幸村は普段、仁王が言ってるように、聖母みたいな微笑みだけれどな。」
「ええ。」

「怒ってもあんな風に微笑んでるんだ。」

「・・・・・・」

勿論、微笑んでるのは顔だけで心は微笑んでいないから、聖母マリアの様なとは言えない。
でも笑ってる。
基本、笑ってる。例え怒っていてもだ。

はっきり言おう。
超怖い。

「・・・・それは・・・それはそれは・・・」
「今怖えって思ったろい?」
「いやそんな、」
「心配するな、柳生。」
「柳君・・・」
「桑原は、知らないでそういう状況に立ち会ったら驚くだろうと思い、前以て言っただけに過ぎない。実際、幸村が怒る事は然程多くないし、それに・・・」
「・・・それに?」
「おそらく、怒った幸村に怯えない人間など居ない。お前だけじゃない、安心してくれて良い。」
「・・・・・・」

それ、安心の材料になるのだろうか。

「話を戻すが、微笑まんでもう少し無表情になれんか?」
「やろうとした事は無いから、出来るか分からないけれど・・・どうしてだい?笑っていると、何か悪い事でもあるかな。」
「悪いと言うか、笑ってると親しみやすいじゃろ。」
「?」
「それに伴って、女子が寄ってくるんじゃ。」

あー・・・と何人かは声に出し。何人かは心中で呟いた。

「なるほど。もう少し近寄りがたい雰囲気を出した方が良い・・・そういう事だね。」
「ああ。」
「甘いぞ仁王w」
「は?」

そんな事、今迄ビードロズ達が考えつかなかったと思っているのだろうか。

いつもニコニコ笑っているから、話しかけに行っても如何にも優しく対応してくれそうだからお近づきになれるかも・・・なんて。
そんな事思われるからややこしいんですよ、此処はちょっと後々の為に、もう少し人嫌いオーラを出しても良いんじゃないですかね?とビードロズ4人は何度も手立てを考えた。

キリッとした表情もその内の1つ。
でも直ぐ却下された。幸村本人に頼んでみる以前の問題だった。
だって。

「よし。なら少し、笑うのを止めてみようかな。・・・はい。」
「・・・・・・」
「どうだい?これなら、」
「いや、いい。」
「え?」
「俺が悪かった。やらんで良いぜよ。」
「どうして?そんなにおかしいかい?近寄りがたさが足りない?」
「違う。」

忘れてた。
ニコニコするとかしないとか以前に、幸村は美形なのだった。

確かにキリッとした顔になっているし、今親しみやすいと感じてテニス部周りで騒いでいる女子の中で、一部の層は思惑通り多少遠巻きになるかもしれない。

でも代わりに別な層が寄ってくる気がする。

「ねw意味無いっしょw」
「というより逆効果じゃな。」
「そう?」
「「そう。」」

「・・・・不思議な感覚よね。」
「珍しく気が合うな。」

幸村に対する周りの評価に関して、一番目をぐるぐるさせられているのはこの2人。千百合と真田である。
紀伊梨のように良くも悪くも深く考えない性格ならなんとも思わないだろうが、この2人はそこそこ考え込む性の上、幸村にとっても近い。あらゆる意味で。

だから自分にとっての幸村と、世間から見た幸村の評価のギャップが一番大きいのもこの2人。
幸村を深く知っているからこそ、いつだったか紀伊梨が言ったように、まるでタレントの様な目で見られているのが何とも言えない引っ掛かりを感じさせるのだった。

「・・・今だから言える事だが。」
「あ?」
「俺は幸村の恋人がお前で良かったと思っている。」
「・・・何急に。」
「幸村が惚れ込んでいるのだからそんなわけはないと信じてはいたが、世の中には居るのだろう。幸村の様な存在を、狐たる己にとっての虎の様な扱いをする奴が。」
「狐・・・ああはい。」

面倒だから訂正はしないが、虎の威を狩る狐・・・というよりは、この場合アクセサリー扱いの方が正しいような気がする。

凄いでしょ私の宝石、こんなに大きくてピカピカなのよ、と人に言うのと同じように、凄いでしょ私の彼氏、こんなにかっこよくて何でも出来ちゃう私の騎士様(ナイト)なのよ、と人に触れ回りたくて仕方がないような。
幸村の彼女がそんなんじゃなくて良かった、と真田としては本当にそう思う。

「私は逆に、なんで精市の友達があんたみたいな奴なんだろうってずーっと思ってたわ。」
「やかましい!」
「あ、今は分かるわよ。」
「む・・・そうか。なら、」
「あんたが馬鹿だからだわ。」
「なんなんだお前は!思い出したように喧嘩をふっかけてきおって!」
「お互い様でしょ。」

真田にだって良い所は沢山ある。
でも、多分これは真田も幸村に対して思っている事であろうが、この2人を友情を繋いでいる一番の要因はお互いに馬鹿だからだと千百合は思っている。

テニスきちがいと言っても良い。
テニスと命どっちか取れと言われたら迷わずテニスを選ぶような性格をしてる。
進路を決める基準はテニス。
日常の最優先事項はテニス。
月に2日しかフリーな日が無いテニス漬の日々の中でも、まだ自主練を飽きることなくやるような入れ込みよう。

自分と同じくらいテニスが好きで、テニスで掴む勝利へ向かって必死にひた走ってくれる存在。
お互いそう思っているから、かけがえがない親友になった。

万事に於いて興味の薄い自分としては、敬意を込めて「馬鹿」と呼びたい。

「お前という奴は・・・!」
「何よ。」
「まあまあその辺りで・・・」
「春日もまだまだ苦労が絶えんのう。」