町に居た。
町は白かった。
ビルも。
道路も。
道行く人々の服も。
空も白いのに不思議と違和感はなくて、そうなんだとさえ思わなかった。
そのまま歩き出した。
サンダルは白かった。
すれ違う人達、行き交う人達は皆、どこかで見たような見なかったような顔をしていた。
当てどもなく歩き続けた。
歩く理由もよく分からなかったけど、歩いた。
じっとしている理由もなかったから。
そういえば、と思ってスマホを探した。
持っていた。
けど、スマホとしての機能はほぼ全て失われているようだった。
唯一出来たのは、音楽を聞くことだけ。
まあ良い。
何が入ってるのか知らないけど、点けよう。
そう思ってスイッチを押すと、画面にゲームのような場面が映った。
町を歩く女の子。
空には三日月が、幾つか。
1、2・・・と数えると、8つあった。
流石の自分でも、月が8つも無い事くらいは知っている。
まあ良いや。深く考えるのは苦手だ。
そう、昔からそうだった。
深く考えるのが苦手だった。
自分は頭が悪いという自覚はあったし。
その悪い頭で考えても、良い結果なんて出た試がなかった。
代わりに、鋭い感覚が備わっていた。
勘。シックスセンス。なんとなく。
そういうものを人より多く当てていた。
だから、気づかない筈はないと思っていた。
いずれその時がやってくれば、必ず分かる。
分からないのは、その時が訪れていないから。
ずっとそう思ってきた。
でも。
見逃したのかもしれない。
永遠にその時など来ないのかもしれない。
それが堪らなく不安だった。
確かめる術もない。
自分の一番当てに出来る武器が勘なのに、その勘が働かなければ、自分にはもう打てる手がない。
その考えが意味もなく足を動かす。
次第に速足に。
そして駆け足に。
今まで見逃してきたかもしれない何かに追いつこうとするかのように。
走って。
走って。
走って。
走ってーーーー
「ーーーーー!」
今。
今、何か。
振り返ると、道行く白い服の人々の中に、一人だけ黒い服の誰かが居た。
フードを被ってるせいで、顔も見えない。
でもあれだ。
あの人に違いない。
わかる。
自分の勘は当たるのだ。
走って声をかけようとすると、人込みの向こうに黒い服の人は紛れていきそうになっていた。
いかん。
見失う。
しかし、その行く手を阻むかのように、入れ替わり立ち替わり色んな人とすれ違うせいで、思うように追いつけない。
駄目。
嫌だ。
いかないで。
お願い。
こっちを向いてよ。
私を見てよ。
気づいてよ。
お願い。
お願い。
行かないで。
そう叫んだ瞬間。
いつの間にか、あんなに邪魔だった周りの人達は皆消えていた。
町は白かったけど、空は青くなっていた。
そして、強い日差しが差していて。
そのせいで逆光がきつくかかって、全然顔は見えなかったのだが。
でも、黒いパーカーの人はちゃんと目の前に居た。
目の前に立って、自分を見ていた。
いや、見ていたって、顔が見えないから目線も見えないんだけど。
その筈なんだけど。
でも分かる。
自分を見てくれている。
ポケットに入れていたスマホから、七色に色づいた音符が零れだした。
其の事にも気が付かなかった。