My treasure 3 - 2/8


ということで散会が始まったわけだが、なるべくばらばらになった方が効率が良い。
が、一人で居ると事故った時にどうにもならない。

というわけで、2、2、2、2、3に分かれることになったわけだが、今回じゃんけんは採用されなかった。もしもその結果、紫希と紀伊梨のペアみたいなことになると、非常に事故の可能性が高いからだ。

だもんで、柳が各種データを元に、事前に分けてくれていたのだが。

「これさあ。」
「うん?」
「どこまでわざとなわけ。」
「あはは!さあ?今回は柳に全部任せちゃったから。」

ちょっとそうなるかなと思っていたけれど、本当に幸村と2人にされるなんて。
良いけど別に。色んな意味で。

「あ。千百合、あったよ。着いたみたいだ。」
「おー。割と大きいじゃん。」

2人が着いたのは、もうとっくのとうに打ち捨てられたホテルであった。いわゆる、廃墟ホテルというやつ。
実は、このホテルの裏手には崖があり、そこを登って進めるとゴールに付けそうなのだ。だから、中の階段を登って、適当な窓から出られないかというのがこのルートの探索目的。

「おじゃまします。」
「おじゃまします・・・へえ、思ったより明るい。」
「そうだね。五十嵐は怖がってたけど、これだけ明るければ十分来れたんじゃないかな?」

外から見てみてわかったが、実はこのホテル、屋根がいの一番にやられているのだ。だから日光がさんさんと降ってきて、中がかなり明るい。

「えーと・・・6階まである。」
「わかった。じゃあ、ひとまず3階まで上がってみようか。」
「ん。」

千百合が返事をすると、ごくごく当たり前のように幸村は右手を差し出した。

「・・・・いや、良いよ。大丈夫だよ。」
「大丈夫かどうかはさておいて、俺が繋ぎたいんだよ。」

もう何度目だろうか、こうなって負けるパターン。いや勝ちとか負けとかじゃないんだけど。

左手を出すと、幸村の暖かい手がしっかり繋がれて、ちょっと顔が赤くなった。

「階段はどこかな?地図があると良いんだけれど。」
「使えるの。」
「コンクリートみたいだし、まだ大丈夫だと思うよ・・・わあ。」
「へー。」

中を歩くと、壁一面に落書きがしてある一角に差し掛かった。
落書きは落書きだけど、ここまでしっかりされてると千百合でもちょっとおおっと思う。

「良いなあ、グラフィティ。一度やってみたいんだ。」
「グラフィティって言うんだ。」

それすらも知らないんだよなあ、なんて思ってぼんやり歩いていると。

「・・・・わあっ!?」
「千百合!」

体重をかけた足の下に何もなくて、千百合は体ががくん!と落下するのを感じた。

ああ、やばい。
そう思った次の瞬間、お腹に幸村の腕が回って、一気に引き寄せられる。

「・・・・・・は、」
「・・・大丈夫かい?」
「多分・・・・」

千百合が今落ちかかった所は、床に穴が空いて地下が見えていた。
そこへ誰かが上に木の板を置いたらしく、千百合は思いきりそこに体重をかけて、もう腐ってしまっていた木はあっさり踏みぬかれて下へ落ちたのだった。

落ちても死ぬまではいかないだろうが、骨折までは普通にあるだろう。
千百合は、今足の下にコンクリートの床があるのを見て、ほっと息を吐いた。

「はあ・・・」
「本当に大丈夫かい?怪我はない?」
「大丈夫、びっくりしただけ。あり、が・・・」

お礼を言おうとして、後ろを振り向いたら、幸村の端正な顔がすごく近くにあった。
咄嗟に身を引こうとしたが、今は体をがっちり押さえられていて、身動き取れない。

千百合が逃げたがっているのがわかって、幸村はおかしそうに笑った。

「もう少し下がったら離すよ。ここは危ないから。」
「・・・・うん。」

まだ落ちた時の感覚が残っているひやひや感と、幸村が近いどきどき感で、千百合は平静を装っているけれど内心実に忙しい。
今の状況だと、慌てることが怪我に繋がるから頑張れているだけ。多分ここが学校とかだったら、反射的に振りほどいていた。

「・・・もう良い?」
「うん。」
「・・・・ねえ。」
「うん?」
「うんじゃなくて!」
「あはは!ごめんね。」

離す気配のない幸村は、促しまくってようやく手を離してくれた。
ああ助かった。

「心臓に悪い・・・」
「そうだね、結構深そうだ。落ちたら捻挫は免れないかな。」
「そっちじゃなくて。」
「うん?違うの?」
「違う。」

むしろ捻挫なんて、痛いは痛いだろうが、痛いだけだ。
千百合にとっては、恥ずかしいことの方が痛いことよりよっぽど大ごと。

「・・・よく考えたら、変な話ではあんのか。」
「え?」
「いや、付き合いだして何年も経つのに、いまだにいろんなことに慣れてないなと思って。」

それこそ4年目にもなったら、ハグのひとつくらい動揺しないで受け入れられるようになってそうなものだが。
動揺しないどころか、緊張感はそのままにステップだけ先へ進むものだから、千百合はたまに、「自分はこれからいつどのようになるのだろうか」と不思議になる。

「あはは。まあ、付き合いたての頃は、浸るよりももっと他に、神経を使うことが山のようにあったし。」
「・・・まあ。」
「受験もあったしね。思えば、あんまり心穏やかな恋愛は出来てないのかもしれない。」

そうか?なんて千百合は思うが、幸村的にはそうか?と思ってもらえてる、その時点で作戦成功だ。

内心はいつだって必死。
千百合が傷つかないように。離れないように。
せっかく受験も終わって同じ学校に通えるようになって、やれやれと思っていたら今度はスカウトされたり逆恨みされたり、気が休まる暇もない。

良いけど、別に。
それでも絶対手放さないともう決めたから。

「そうだ。」
「?」
「練習するのはどうかな?あんまり会えないのは事実だし。」
「・・・・何の。」
「はい。」

幸村は両手を広げた。

「・・・・・え、」
「慣れるには、やっぱり回数を重ねるのが一番だから。」
「・・・・・・・」
「どうかな?」
「・・・・無理、がありそう。」
「あはは!わかった、じゃあ行こうか。コンクリートかどうか確認して歩かないとね。」

再出発し始めた幸村に、千百合は赤い顔のまま黙ってついていく。応じても良かったという気持ちもあるけど。

(いやでも無理、まだそこまで悟れてない、無理・・・)

ああでも惜しいことをしたのかなあ、とか考えつつ、足下はおろそかにならないのが、千百合のそつのない所だった。